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【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.32】「舞い上がれエレベーター」
2024.02.04
20代の頃、知り合いの住まいがマンハッタンにあり、訪ねた事があった。入り口にガードマンが立って居た事に驚いた。その頃私が住んでいた世田谷では、ガードマンなる存在など見たこともなかった。
1番驚いたのは、エレベーターだ。乗った時は曇っていたのに、降りたらサンサンと太陽が光を振り撒いていたのである。自宅が雲の上なのだ。住人は、外出する時必ず地上の天気を調べると言っていた。その時から、エレベーターを使う生活に憧れた。
今、住んでいる前橋のマンションは4階だ。雲の上ではないけれど、エレベーター生活を始めて3年が過ぎた。マンハッタンを思い出すのか、乗るとすぐ撮影してしまう。降りる時は、地上に舞い降りる鷹の気分、上がる時は、離陸する大陸横断の飛行機の気分を味わっている。(笑)エレベーターは、一瞬現実原則から解き放ってくれる遊びの空間なのだ。
そう言えば、夢で飛び上がり屋根から屋根へと飛行する時の上昇スピードは、エレベーターの速度と同じだ。乗る度に、この上昇体感は知ってるぞと思い、先日気がついたのだ。エレベーターは、ベッドから空に飛び上がるピーターパンだ。
ピーターパンは、「飛べないと思ったら飛べなくなる」って言っていたなあ。
Sakumi Hagiwara
萩原朔美(はぎわら・さくみ)
1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。昨年、世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵された。著書多数。現在、多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長。2022年4月から、金沢美術工芸大客員教授、2023年7月から前橋市文化活動戦略顧問。
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