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【グルメ散歩⑩】
前橋、人情総菜屋へ
今夜のおかずを買いに

2026.05.28

【グルメ散歩⑩】
前橋、人情総菜屋へ
今夜のおかずを買いに

 外で食べるだけが、街の味ではない。家に持ち帰る焼き鳥、煮物、刺身、弁当にも、その土地の暮らしが詰まっている。忙しい日も、少し疲れた日も、食卓を助けてくれる手作りの総菜。そこには味だけでは語りきれない店の人の顔がある。前橋で長く親しまれてきた店から、若い夫婦が開いた新しい店まで。今夜のおかずを探しに7軒を歩いた。
(取材/阿部奈穂子)

老舗が支えた街の食卓

 前橋三中通りにある「木村屋」は、戦後間もなく開店した鶏肉の総菜店。焼き鳥は手羽先、ナンコツ、ねぎま、皮、レバー、砂肝、モモ、つくねと部位がそろい、塩とタレを選べる。唐揚げ、出し巻き玉子、自家製プリンも並び、ここに寄れば夕飯の支度はかなり整う。

 鶏肉は筋肉の繊維を傷めにくい「手ばらし」のものを使う。長く続いてきた店には、派手な言葉より強い説得力がある。

▲「木村屋」の焼き鳥は予約して取りに行くのがオススメ

▲鶏のマークが目印

 「織田商店」は創業60年以上。もとは駄菓子屋として始まり、魚屋を経て、いまは3代目の織田吉久さん、めぐみさん夫妻が総菜店として営む。

 吉久さんは東京の会席料理店で15年修業した料理人。キンピラ、ひじき、ポテトサラダ、焼き魚、揚げ物まで、日々のおかずなのに、どこか一段きちんとしている。火曜の油淋鶏、木曜のレバニラ炒め、土曜の豚の角煮と、曜日限定の品も楽しみだ。

▲市街地に近い「織田商店」。仲の良い夫婦が経営する

▲火曜の油淋鶏は大人気。織田商店

 日吉町の「中川商店」は創業50年を超える。ショーケースにはマグロ、カツオ、貝、甘エビなどの刺身が並び、隣には煮物やサラダ、稲荷、太巻きもそろう。ポテトサラダはじゃがいもの味が生き、サバの味噌煮は見た目より塩梅がやさしい。

 ご両親のあとを継ぎ、いまは兄弟で店を守る。車がなくスーパーへ行けない高齢者宅への行商も続けており、店は地域の食卓に深く入り込んでいる。

▲鮮魚担当の弟、中川秀人さん

▲中川商店の刺身。煮物や揚げ物、サラダ類もある

手仕事の味を持ち帰る

 こんなに安くていいの、といつも心配になるのが「しんか家」。うどん屋であり、総菜屋でもある。つゆ付きの茹で麺に太キンピラ、かき揚げ、ナス天、だし巻き玉子、ポテトサラダを合わせれば、昔の家の食卓のような眺めになる。うどんは中太で弾力があり、冷たいつゆでも温かくしても味が崩れない。

 かつては料理屋だったという背景を聞くと、総菜のおいしさにも納得する。

▲メインはうどんだが、総菜も充実。「しんか家」

 前橋リリカ南側の路地にある総菜屋「松嶋商店」は70年以上前、八百屋としてオープンした店。いまも店先には旬の野菜が山盛りに並ぶ。

 店内にはきんぴら、しなちく、ぜんまい煮、おから、ポテトサラダ、大鍋のけんちん汁など約40種類の手作り総菜。大皿や鍋から好きな量だけ量り売りしてくれる。

 店を切り盛りするのは、2代目の隆男さん夫妻、3代目の義巳さん夫妻、義巳さんの姉の5人。近くにこの店があれば、夕飯に困らない。

▲店先の野菜も安い。「松嶋商店」

▲店を切り盛りする家族5人

 敷島公園ばら園の隣にある「つるきや」は手作り総菜と弁当の店。現在の場所で20年以上、その前は緑が丘町で40年間、食肉の卸をしていた。

 店内には大きな皿に入った料理がずらりと並び、好きな量だけパックに入れて量り売りで買える。鶏のから揚げ、サバの煮付け、豚の角煮、季節のサラダ、味噌汁までそろい、少しずついろいろ食べたい人にはたまらない。陽気のいい日には、ここで弁当を買い、ばら園のベンチで食べる人もいるという。

▲好きなモノを好きなだけ。つるきや

若い夫婦が開いた新しい台所

 最後に訪ねたのは、2022年に開店した「ぐぅぐぅキッチン」。白石高広さん、由里さん夫妻が営むテイクアウト専門店だ。弁当のほか、冷蔵ショーケースには一人分にちょうどいい量の総菜が並ぶ。鶏と水菜のザーサイ和え、白和え、きのこのマリネなど、酒のつまみにも夕飯の一品にもなる。毎朝6時30分から仕込みを始め、一から手作りする。「美味しい」と言ってくれる客の声が励みになる、と夫妻は話す。

▲「ぐぅぐぅキッチン」の白石さんご夫妻

▲ほどよい量をパックに詰めて。「ぐぅぐぅキッチン」

 前橋の総菜屋はただ安くて便利なだけではない。鶏肉をさばく人、煮物を炊く人、魚を仕込む人、弁当を詰める人がいる。

 店先で少し話し、今夜のおかずを選び、家に帰って皿に移す。その時間まで含めて街の味になる。

 

※データは取材当時のもの。営業時間や料金に変更の可能性あり。

▲お皿に盛りつけたらご馳走に。中川商店