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【グルメ散歩④】
前橋百年の味
受け継がれる暖簾の記憶
2025.10.13
前橋のまちなかや周辺には、百年を超える味を守り続ける老舗が点在しています。鮮やかな洋食屋のカレーに始まり、代々受け継がれたそばや寿司、鰻、精肉商、そして親しみ深いパンまで。暖簾の向こうには、時代を超えて市民の暮らしを支えてきた食の物語があります。
(取材/阿部奈穂子)
柳の川辺にカレーの香り
百年の味を訪ねる旅は、弁天通りの最北、柳が茂る広瀬川の河畔に建つ「レストラン ポンチ」から始めましょう。
1920(大正9)年創業。鮮やかな黄色のカレーで知られ、市民に愛され続けてきました。自慢のルーは創業時から継ぎ足し、継ぎ足ししてきたもの。とろりとした口当たりの奥に、年月が積み重なった深みがあります。かつては鍋を抱えてルーだけを買いに来る客も多かったそう。カツやメンチのトッピングも抜群の美味しさです。
2019(令和元)年に建物は新しくなりましたが、スプーンを運べば変わらぬ味わいが広がります。
▲レストランポンチ
ポンチを出て数分歩けば、立川町通りの「大川屋本店」に行き当たります。1881(明治14)年創業、今年で144年。名物「絹おろしそば」は、きめ細かな大根おろしとそばの調和がやさしく、旅の歩をしばし止めさせます。川風に吹かれながら味わう一椀は、街の時間をゆるやかに変えてくれます。
▲大川屋 絹おろしそば 写真はミニサイズ
足を駅方面へ向ければ「結城屋本店」。1884(明治17)年創業、141年を重ねてきた。看板の天おろしそばは、澄んだ出汁と大根おろしが絶妙に絡み、のどをすっと抜けます。座敷に腰を下ろせば、街道を行き交った旅人の姿が目に浮かぶようです。
▲結城屋本店冷しおろしそば
鶏肉と鰻のにぎわい
中心市街地から北へ歩を進め、広瀬川にかかる橋を渡った先に「蓮見商店」があります。
大正期(1912〈大正元〉〜1926〈大正15〉年)の創業と伝わり、百年前後の歴史を持ちます。冷蔵ケースに入った鶏肉は種類豊富で、注文に応じて切り分けてくれます。夕刻には客足が途絶えず、揚げ物や焼き鳥の準備に追われる店主の手が忙しく動きます。
▲蓮見商店の焼き鳥。テイクアウトのみ
寿司もウナギも
ちょっと、南部に行きます。「初日総本店」は小料理屋として1891(明治24)年に創業した店を寿司店に変えた2代目、鈴木秋次郎にあやかった「秋次郎の寿司」が食べられます。
現代の2、3倍ある大きな寿司は当時の江戸前の「仕事」が施されています。マグロはヅケ。サバは強めの酢で締められ、タイは昆布締めです。赤酢を使ったシャリは香り高く、力強いネタを包み込むよう。
▲初日寿司の「秋次郎の寿司」
中心市街地に戻りましょう。「うなぎ割烹 矢内」は、幕末の元治年間(1864〜65〈元治1〜2〉年)創業と伝わっています。
160年の歴史を背負う蒲焼は、秘伝のたれと炭火の香を重ね、重厚な旨みを今に伝えています。
毎朝、活きたウナギを裂き、旨みを逃がさぬよう注文を受けてから蒸し始めます。蒸し上がったら、仕上げの焼きに。タレを付けては焼くことを3回繰り返して出来上がり。
▲矢内のうな重
パンの温もりと菓子の雅
散歩の締めくくりは「スズメ堂」。1926(昭和元)年創業、99年の歴史があります。焼きそばパン、コロッケパン、マヨたまサンドはコッペパンを使ったサンドイッチ。具材がはみ出すほどたっぷり入っています。しかも驚くほどの安さ。学校給食用のパンも手掛け、子どもたちの口にも馴染んでいます。
▲スズメ堂の人気トリオ。1つ170~180円という価格
ほかにも、和菓子では、本町の「青柳本店」が1870(明治3)年、下馬将軍でお馴染みの「御菓子司 新妻屋」は1885(明治15)年創業。
焼きまんじゅうには驚くべき老舗があります。「原嶋屋総本家」は1857年(安政4)年創業で今年でなんと168歳。そして「田中屋製菓」は1924(大正13)年に生まれました。
▲青柳本店の看板商品「糸くるま」
▲炭火で焼く原嶋屋総本家
百年を超える老舗を歩くと、前橋の街に息づく味と人の暮らしが見えてきます。世代を超えて受け継がれる暖簾は、これからも変わらず街を支えていくことでしょう。
※飲食店の情報は取材当時のもの。営業時間やメニューの価格変更の可能性あり。
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