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【昭和高校球児物語-前高 完全試合のキセキ-▶55】
高校3年春-4

2023.05.05

【昭和高校球児物語-前高 完全試合のキセキ-▶55】
高校3年春-4

強打・宇都宮商を破り4強

春季関東大会2回戦は5月15日、対宇都宮商業高校。前の試合の法政第二高校対我孫子高校が延長となる打撃戦でずいぶんと待たされた。

スタンドで見たり、物陰に行って素振りをしたりしていたが、法政第二の4番、田辺浩昭が全打席で快打を飛ばしているように見えた。2回戦を勝利すればこの勝者との対戦となると分かってはいたが、頭の中は目前の宇都宮商業戦でいっぱいであった。

宇都宮商業は前年秋の関東大会にも出ており、その時から「スラッガー斎藤浩行」は有名だった。恐らく190㌢ほどある上背と、ガッシリした体格。打席姿にパワーがみなぎっていた。他方でサード守備には若干のぎこちなさを見せていた。

右本格派の秋山浩一投手は後に社会人の日立製作所で活躍し、外野には専修大から明治生命でプレーした小宅俊次がいた。2年生にも笈川忠一、山中哲夫と翌年の甲子園で活躍するメンバーがおり、戦力は充実していたのだった。

1回表。先攻マエタカ。川北がアウトコースの直球を弾くとゴロとなって三塁ベース際を幸運にも抜けるヒットとなった。

堺晃彦、相澤雄司は外野飛球に打ち取られたが、4番、松本稔の際に田中不二夫監督が両膝を両手で触った。盗塁のサインだ。

川北がサインのままに走ると投球は大きなカーブで、送球も遅れてセーフ。川北には考えもつかなかったが、田中監督は次の投球が変化球と読んでのサインだったのだろう。

初回、川北が2盗を決め、先取点のおぜん立てをする

2死ながらランナー2塁。松本の打球は痛烈なサードゴロ。斎藤はボールを握り損ねたのだろう、一塁へ高投した。二死でもあり迷わず走った川北がホームイン。幸運な先取点となった。1対〇。

その後、試合は緊迫した。スイングの鋭い宇都宮商業打線は凄味に溢れていた。

中でも斎藤はその体躯からバットが短く、軽く見えた。彼が打ち上げたサードフライはとてつもなく高く舞い上がった。上空に消えてしまったかと思うほどで、落下してくる加速度も激しく、川北は足をよろけさせながら捕球した。

6回表。マエタカは敵失も絡んだチャンスに5番、佐久間秀人がセンター前にタイムリーで1点追加した。2対0。

その裏、宇都宮商業の攻撃。1死後、1番打者に右中間3塁打を打たれ、2死後、3番にピッチャー返しを打たれた。これを松本が何とか弾き、川北がバックアップに駆け寄ったが、グローブからボールがこぼれて1点を返された。

そして4番の斎藤。彼の打った当たり損ねかと思った打球はそれでもレフトフェンスにダイレクトに当たり2塁打。二死ながら2、3塁と逆転のピンチ。しかし、ここは松本が5番打者をセンターフライに打ち取った。何とか2対1。

その後は双方チャンスをつくるが両投手があと一本のところで踏ん張りを見せて最終回へ。

裏の攻撃。宇都宮商業は1死1、2塁と盛り上がる。次打者の当たりはセカンドゴロ。4―6―3と渡るが1塁はセーフ。

その隙にランナーが本塁へ突入。ファースト佐久間が懸命のバックホーム。高野昇のブロックで間一髪アウト。緊迫から一気の幕切れとなった。また勝ったのである。これで準決勝進出となった。

内野陣の好連携と高野の好ブロックで同点を阻止する

連戦の疲れ、菓子で癒す

一方、キリタカは市営大宮球場にて前々日、作新学院に完封勝利。1日空けてこの日は鉾田第一に延長13回、サヨナラ勝ちを収めていた。

この関東大会は日程がタイトで、マエタカにとっては1回戦、2回戦が連戦のうえ、準決勝、決勝は連戦かつダブルヘッダー設定だった。

勝ち進めば3日間で全4試合となるのだ。マエタカ部員、中でも投手の松本の疲れは相当だったはずだ。

一方、キリタカの木暮洋は1日空きがあったとはいえ延長戦も投げていた。その精神力には脱帽せざるを得ない。

ただ、ピッチャーの負担の一方で、試合が続くイコール「練習がない」野手陣は宿舎でリラックスモードだった。

「お菓子が食べたい!」と誰かが言い出し、「そういう買い物は俺だわな」と田口淳彦が買い出しに名乗りを上げる。みなも「おー、頼むぜ。頼むぜ」となった。

サブカルチャー的な物への田口のセンスはみなが認めるところだったのだ。買い出し結果はさすがだった。大袋的なものは一切なく、小袋、小箱的な物を多種多様にどっさり買ってきた。

お店がここに来たようで、選んだり中味を確認したり、楽しいおやつタイムとなったのだった。

また、確かこの遠征中に野球部顧問の内山武先生の英語の授業もあった。記憶が曖昧だが教科書を持ってこいと言われていたのだろう。音読と和訳、文法的には使役動詞を教わったように思う。車座になってのリラックスしたひと時であった。当時の空気感を思い起こさせる一ページである。