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【前橋シネマハウス支配人 日沼大樹のシネパラ】vol.4
『荒野に希望の灯をともす』
2022.11.27
医師として、地域のリーダーとして中東の人々を救うために奔走した中村哲さんの姿を描いた作品『荒野に希望の灯をともす』が12月3日から17日まで、前橋シネマハウスで上映される。
用水路で荒野を緑の地に
高校で入部した野球部のオリエンテーションで当時の監督に聞かれた。「君達は偉人になりたいか」。20年以上たったいまでも鮮明に覚えている質問である。
そもそも偉人という者の存在自体を考えたことが無かった。「偉人?偉い人?総理大臣?」そんなレベルである…。一人の同級生が「絶対に偉い人になりたい!」と発言すると監督は「偉人とは偉い人ではなく。周りに素晴らしい影響を与え、尊敬される人物だと思う。その円が大きければ大きい程、歴史に名を残し偉人と呼ばれる。みんなには偉人にならなくとも学校でもクラスでも野球でも周りに影響を与え、尊敬される。そんな存在になってほしい。そのためには自分の事ばかりを考えていてはいけない」。
その言葉が現在の自分に影響を与えているのは間違いない。“偉人”になりたいわけではないが、自分を客観的に見られるようになった青春時代の思い出である。
なぜこんな前置きをしたかというと40年近く生きてきて初めて、自分が偉人と思える日本人と同じ時代を生きたことを知ったからである。
その人の名は“中村哲” 。35年という長い年月を中東の人々を救うために奔走した人物である。彼は中東の地にいくつもの診療所をつくり貧しい土地で病に苦しむ人と寄り添い救ってきた。しかし紛争と干ばつが襲う土地で人々の暮らしは厳しさを増すばかり、そんな状況を見かねた彼は医師でありながら痩せた土地を蘇らせるために、用水路の建設を開始する。
専門家もおらず苦難の連続、技術トラブルや空爆にも見舞われ、追い打ちをかけるように最愛の息子の死…。そんな苦難を乗り越え完成した用水路で荒野は広大な緑の大地へ変貌し、現在その土地で65万人が命を支えられている。
我々が目指すべき道を教えてくれる
現在のロシアとウクライナの戦争で私たちは武力という物をはき違えてはいないだろうか?劇中で彼はこんな言葉を残している「武力で戦争はやめられない。人々の暮らしは救えない」「彼らは殺すために空を飛び、我々は生きるために地面を掘る」と。本作では厳しすぎる世界で生きる彼の本心が私たちに語り掛けてくる。日本人である我々が目指すべき道を示してくれるのではないだろうか。
2019年12月4日、日本から遠く離れたアフガニスタンの地で彼は武装勢力の銃撃によって亡くなった。アメリカでもヨーロッパでも日本でも悲報は世界中に伝わった。自分たちの国、民を守るために人生を捧げた異国人をも奪ってしまう。それが武力を持った人間である。自分の利益だけを求めず、信念で多くの人を救い、世界中に影響を与えた彼はまさしく“偉人”であろう。彼の意思を同じ日本人として伝えて行きたい。そして彼の死から3年になる12月に本作『荒野に希望の灯をともす』を追悼上映したいと思っている。
「荒野に希望の灯をともす」
出演:中村哲
監督:谷津賢二
時間:90分
日時:12/3(土)~12/17(金) ■14:00-15:35
会場:前橋シネマハウス(前橋市千代田町5-1-16 3階)
日沼 大樹
日沼大樹(ひぬま・ひろき)
1986年、前橋市生まれ。東京農大二高―関東学院大卒。2016年、群馬共同映画社へ入社。2018年~、前橋シネマハウス支配人。2児の父。
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