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【昭和高校球児物語-前高 完全試合のキセキ-▶56】
高校3年春-5
2023.05.07
法政二に逆転勝ち 決勝進出
春季関東大会準決勝は5月16日、法政第二高校戦。勝てば決勝も行うダブルヘッダーということもあり試合開始時間が早かったはずだ。
さすがに3日連続の3連戦目。だるさもある体で大宮公園内を歩いて球場に向かった。木々の間からの朝日の木漏れ日がまぶしかったことを覚えている。暑くなることを予感させた。
法政第二といえば、歴史を遡ると巨人で活躍した柴田勲選手が投手で、「高校野球史上最強のチーム」と謳われていたこともあった伝統校だ。
ただマエタカが対戦したこの時は大型選手を揃えていたわけではなく、バランスのよさで勝ち上がってきた印象であった。
唯一、4番の田辺浩昭1塁手が、左打席からしなやかでシュアーな打撃をみせていた。彼のスイングはモノが違うと思わせるものだった。
1回表。川北の放ったいつも通りの当たり損ねゴロは失策を呼び、堺晃彦のサードゴロで二進。3番、相澤雄司のライト前ヒットですんなり生還。まだお互いにエンジンの掛からない感の中でスルリと得点した感覚だった。1対0。
その裏、法政第二の先頭打者がピッチャー前にセーフティーバント。難なく松本稔が捌いたが、この時、相手打者が大きくインフィールド内側に送球を妨害するべく走路をとった。
「あっ!この野郎っ!」
3塁側ベンチから田中不二夫監督の大叱責が飛んだ。あまりの大声で、守っていたマエタカ選手もびっくりした。そうだ…。2年前の夏の大会前の練習試合、3年生で4番打者だった外池悟が怪我をした場面を思い出した。ピリッとさせられた。
その後、試合は劣勢に進んだ。3連投の松本は体が重そうで2回、4回、5回とコツコツと1点ずつ取られ、1対3となった。
快打一発やられた感ではなく、しぶとく、しぶとく得点されたのだ。この大会で初めて相手にリードされた。
6回表。やはり連投の法政第二投手も疲れが出たのだろう。マエタカは3番、相澤雄司から。バット一閃、痛烈な打球が一塁線を抜けて2塁打。
続く4番、松本は三遊間を抜いた。この試合、相澤は3安打、松本は4安打と固め打ちした。
無死1、3塁。5番、佐久間秀人、初球をセンター前ヒット。6番、高野昇、同じく初球を左中間2塁打。強気な攻撃であっという間に3対3の同点。
さらに7番、石井彰の時に法政第二投手が変化球を指に引っ掛けてワイルドピッチ。難なく勝ち越し点を挙げた。4対3。
この回の投球数にしてほんの6、7球の間の速攻逆転だった。結果論ではあるが、「冷静で強気な積極性」が勝負事においていかに重要かを再確認した。
松本は5回まで相手に8安打を許したが、6回以降はエンジンが掛かったのか1安打に抑え、焦りの出た相手打線を手玉に取った。
この試合を通じて4番の田辺浩昭をノーヒットに封じたことも大きかった。
試合はそのまま終了。なんと昨秋に続いての関東大会決勝進出となった。ここまでを振り返ることも、実感もまったくなかった。気が着いたらそうなっていたのだ。
桐生も決勝へ、球場にどよめき
決勝戦は引き続き同じ県営大宮球場とのことで、いったんベンチで昼食を取っていると、場内放送が入った。
「市営球場準決勝戦、帝京高校対桐生高校、2対1で桐生高校が9回サヨナラ勝ちとなりました。決勝戦は引き続き当球場にて前橋高校対桐生高校を行います」
「おー」というどよめきと拍手が起こった。マエタカ選手は一つ一つ、目の前の戦いに全力で挑むことで幸運にもここまでたどり着いたのだが、決勝の相手がキリタカとなり、キリタカの執念めいたものを感じざるをえなかった。
しかもキリタカは前日の延長サヨナラ勝ちも含め、3試合中2試合がサヨナラ勝ちなのである。
公式戦2試合、練習試合2試合の計4試合、全敗しているキリタカに一泡吹かせることができるのか。淡々と弁当を食べたことを記憶している。