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【萩原朔美の前橋航海日誌vol.17】「白い川」
2022.11.08
七年前、前橋文学館に通いはじめて一つの疑問が浮かんできた。広瀬川の河辺に文学館があるから、必ず一度は広瀬川を眺める事になる。川は一度も白く流れてはいないのだ。
というのは、朔太郎の「広瀬川」が白だからである。
広瀬川白く流れたり
時さればみな幻想は消えゆかん。
何故白なのだろうか。
白く見えたとしたら、太陽光の反射のせいかも知れない。可視光線の乱反射の極限は白だ。ガラスを粉々に割って砂のようにすると白くなる。
しかし、詩の中で使われる言葉は、意味だけではなく、イメージの源泉だったり、隠喩や音として使うから、白はホワイトではないのかもしれない。例えば、白は、悲しさを感じさせるためのものかも知れないのだ。
広瀬川かなしく流れたり
であってもおかしくはない。詩の解釈に正解はないから、これからも、勝手に考えつづけるしかない。
それにしても、広瀬川は見るたびに印象が変化する。時には荒々しく怒っている日があったり、鎮まりかえっていて、何かに耐えて流れているように見えたりする。多分その印象の変化は、自分の心の反映に違いない。川はリトマス試験紙みたいなものだ。
私は、未来をイメージする時は、赤城山を眺め、過去を思い返す時は広瀬川を見つめる事にしている。川の流れは戻ってこないからいい。
Sakumi Hagiwara
萩原朔美(はぎわら・さくみ)
1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。昨年、世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵された。著書多数。現在、多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長。2022年4月から、金沢美術工芸大客員教授、アーツ前橋アドバイザー。
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