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【萩原朔美の前橋航海日誌vol.22】
路面表示サイン
2023.03.31
歩道を示す人型のサインを見て、私は母親と幼い息子が歩いている姿だと勝手に思ってしまう。
自分が母一人子一人で育ったからだろう。人によったら、父と息子、母と娘に見えるかも知れない。
前橋のデザインは、親子だか、身長の高低だか分からない。性別を示すサインがない。親子とも言い切れない抽象化され簡略化された人型だ。
地域によっては、母親と娘と分かるタイプや父、母、子供とはっきり分かるデザインもある。
私は個人的には、前橋のこういう簡略化がいいと思っている。親子三人が手を繋いだサインが路面にどこまでも続いていると、家族団欒という体験のない者にとっては、すこし淋しい気分になるものだ。手を繋いでいるタイプのサインを見て誘拐をイメージして怖くなるという人がいた。サインは難しい。
そのうち丸と長方形だけで、同じ高さのデザインが登場するかもしれない。それを見た私が、母親と成長した息子にしか見えなかったらどうしよう。サインは、人の内面を暴き出す恐ろしいものなのだ(笑)。
Sakumi Hagiwara
萩原朔美(はぎわら・さくみ)
1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。昨年、世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵された。著書多数。現在、多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長。2022年4月から、金沢美術工芸大客員教授、アーツ前橋アドバイザー。