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【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.37】手を振り見送ってくれる県庁舎
2024.08.08
去る時、来る時、車窓に出現する風景は、いつでも心が揺り動かされる。
前橋に来る時は、勿論、左手に現れる赤城山だ。稜線がくっきりと見える日は、それが吉兆に思え、姿を消している時はガッカリする。
北海道の羊蹄山、黒磯の那須岳など、思い出す幾つかの山はあるけど、赤城山ほど車窓から見続けた姿はない。
去る時は、右手に見える群馬県庁舎のビルだ。あのぽつんと独りぼっちで立っている様は哀愁があって、去る時の気持に寄り添ってくれる。どんどん、小さくなっていく姿を追って行くうちに、映画の中で去り行く汽車に必死で手を振る別離のシーンがイメージされて寂しくなったりするのだ。建物が見送ってくれる街は前橋だけなのだ。
Sakumi Hagiwara
萩原朔美(はぎわら・さくみ)
1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮。世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵されている。著書多数。多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長(現在は特別館長)。2022年4月から金沢美術工芸大客員教授、2023年7月から前橋市文化活動戦略顧問。