けやき210本の並木。通りに設置されたプレートにそう書かれている。駅から五叉路までは、上空で手を繋いでいるかのような豊かな枝のトンネルが続いている。
県庁までの全ての樹を写真に撮ったら、現在206本だった。
けやきは、ポプラや銀杏の様に、一本の幹が真っ直ぐに伸びるのではなく、途中から枝分かれして扇型に広がるタイプだ。
だから、緑の屋根が空に広がっているように見える。歩くと樹影に包まれ安心感がわいてくるのだ。
剪定されたけやきを使って、コーヒーカップや、メガネ置き、鉛筆、本箱とか作ってもらいたいと思う。通勤、通学、デート、散歩した時、いつも寄り添うように人々を見守ってくれた並木のけやきを、今度は想い出の品として机の上に置きたいのである。
実は私が欲しいものはけやきの表札だ。長い間立ち続けた並木のけやきに、玄関を見守ってもらいたいと思うのだ。
萩原朔美(はぎわら・さくみ)
1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。著書多数。現在、多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長。