interview
聞きたい
【どうなる群馬県民会館▶2】
「群馬県民会館を守る会」代表、鈴木創さんに聞く
2025.01.22
シリーズ第二回は、箏曲家であり、「群馬県民会館を守る会」代表の鈴木創さんに話を聞いた。同会は2020年、群馬県が県民会館の「廃止を検討する」という方針を示したことを受け、音楽家や商店街団体幹部ら有志と共に結成された。
(取材/阿部奈穂子)
当初の見積もりは27億8500万円
――いま、群馬県民会館が存続の危機にあります。
世の中には民間企業もあれば行政もあります。民間企業は営利目的だから、利益を出さなければいけない。でも利益は出ないが、その地域の住民に必要なことがある。それが行政の役割だと思います。例えばゴミの収集もそう。地方においては、文化施設やホールの運営も該当すると思います。
文化とは、人間を人間たらしめるもの。衣食住など生存に関わるもの以外に対して、感動したり、努力したり、追求したりする、人間でなければできないことです。行政は文化を支援してほしいと願います。
県民会館はいろいろなオーケストラやアーティストがパフォーマンスを発揮し、中高校生の吹奏楽やピアノ、バレエコンクールが行われる。言ってみればみんなの憧れの場所であり、教育の場でもある。そういった場所を、単に赤字だからとか、改修に費用がかかるからと言って、簡単に閉館していいのでしょうか。
――改修費用は50億円以上ともいわれていますが。
その数字にも疑問があります。公文書開示請求で入手した資料によると、2019年の段階で、岡田新一設計事務所が県に提出した大規模改修工事費用は、消費税込みで約27億8500万円でした。
県は最初からそれを30億円と言っているんです。すでに1割上乗せしていました。その後、あれもこれもと膨らませ、物価の上昇もあるのでしょうが、なぜかいま50億、60億と言っています。
しかも当初の27億8500万円の中には、いま使っていない上階の会議室の内装をきれいにしたり、ロビーのサイン(看板や標識)を新しくするなど、必ずしも早急に必要でない部分まで含んでいるのです。
――費用はもっと削れそうですね。
例えばホールだけを存続するのであれば、ホールの耐震性など安全性で求められるものだけを工事をすればいいわけですから、当初の27億8500万円もかからないでしょう。そういうことをしっかりと精査し、一体いくら必要なんだということを突き詰めて、県と市が議論するべきだと思っています。
――県と市が相互負担という道もあるかもしれませんね。
50、60億円の一部を前橋市に負担しろというのはあまりにも荷が重すぎる。でも必要なことをきちんと精査し、例えば「10億円でやりましょう、悪いけれど前橋市も協力してください」となれば、話は進むのではないでしょうか。
疑問感じるアンケート内容と方法
――県民会館をめぐり、県は県民1000人を対象にアンケートを実施しています。
そのアンケートの内容も納得できない部分が多いです。アンケートでは「施設の利用者数(大ホール)は、コロナ禍を経てピーク時の 1/4 程度まで減少しています」と記載されています。コロナ禍後のコンサートなどはようやく本格的な開催が復活してきたばかりで、開館やピーク時と比較して利用者数が減っているのは当然です。
また、「大規模な改修には、最低でも50億円以上の費用が必要となり、改修後も、毎年1億円以上の維持管理経費がかかる見込み」と書いて、「県民会館は必要か」と問いています。「不要」へと誘導しようとしているのを感じます。改修工事の内容を取捨選択すれば、そこまで金額がかからないといったことは一切記されていませんし、50億円以上という金額の根拠も示されていません。
――アンケートは「マイクロミル」というアンケートモニターサイトを使って行われているそうですね。
そのマイクロミルに登録している人だけが対象で、これが広く県民の意見を求めたアンケートと言えるのか疑問です。
また、「県民会館を使っているのは前橋市民がほとんど」と言っています。確かに統計上、そうですけど、申請する団体が前橋市にあったとしても、例えばイベントやコンサートではそこに来るお客さんはいろんな地域の人じゃないですか。それをもって前橋市民しか使っていないというのも客観性がないなと感じています。そうやって「県民会館はもういらないんだ」というような印象操作をしているように見えます。
閉鎖したあとの活用方針、解体した場合の費用などは示されておらず、思考の幅を与えていません。
深刻な前橋のホール問題
――改修ができたとしても維持の費用はかかりますね。
おそらく地方都市で黒字になっているホールはほとんどないと思います。でも、そこに予算を振り分けるのが文化行政であり、またアーティストが来れば前橋に人が集まるわけです。その人たちが例えば帰りに食事をする、お土産買うと言ったら、地域に対する経済効果があります。そこの側面は全く議論されていないんですね。
――万が一、県民会館が無くなったら、前橋のホール問題は深刻です。
前橋テルサも閉まっています。県民会館も無くなると、前橋市民文化会館しかありません。いま、市民文化会館の小ホールの需要がすごく高まっていて、抽選会に行っても競争率が高くて取れないという状況です。なおかつ、市民文化会館も改修工事が予定されているとも聞きます。一時的にホールがないという状況ができてしまいます。文化団体や部活動に制約が出てしまいますし、せっかく普段頑張っても披露する場所がないということになります。また、学校や企業なども式典などの会場確保が難しくなるでしょう。
――ホール難民が増えてしまいますね。
県都として2000人規模のホールがなくなってしまうっていうのはいかがなものでしょうか。市民文化会館を作るとき、県民会館が2000席あるからということで、市民文化会館は大ホール1200席で小ホール700席という規模に抑えたわけです。そういう経緯があるのに、県民会館を存続させないとするというのはどうなのかなと思います。
なおかつ、県民会館を建てるときに、あの辺り全体の地域計画案を岡田新一設計事務所が作り、県立図書館や商工会議所など同じような雰囲気でまち作りをしています。その核がなくなっていいのでしょうか。
県民会館を閉めるんだったら、あの場所を先々どうするのか、県はしっかりと構想を示すべきだと思います。