interview
聞きたい
【どうなる群馬県民会館▶4】
前・前橋市長、山本龍さんに聞く
2025.01.28

群馬県民会館は存続するのか、しないのか。シリーズ第4回は前・前橋市長の立場から、山本龍さんに話を聞いた。
(取材/阿部奈穂子)
知事と市長の議論つまびらかに
――改修し存続が決まっていた県民会館。山本一太知事になり、存続見直しという話が出たとき、どう受け止めましたか。
長い歴史の中で、県民会館は前橋の文化ばかりではなく、経済の循環の一つの柱になってくれました。
見直し議論が出たとき最初に思ったのは「市が関わって存続のアイデアを見つけたい」ということ。そこで3年間、前橋市に指定管理をさせもらうことを願い出て、コスト縮減の手法を考えることにしました。
結果的に全館ではなくて2000席の大ホールに絞り込み、コストを削りながら運営することができました。
残念ながら2年目で市長の職を離れることになり、ラスト1年は関われなかった。指定管理も慣れてきて、最後の年は貸し館業だけでなくて、いろいろな形の文化イベントも企画するぞという矢先でした。面白い価値を創造し、それを持って知事に存続の判断をしてもらえればよかったと、心残りはあります。
――指定管理をされていたときに印象的だったことは?
ウクライナ国立歌劇場の公演です。ロシアの攻撃で劇場が壊れて使えず、団員たちが世界中に避難生活をされていたのです。
練習もままならない彼らを前橋市は迎え入れ、県民会館で舞台稽古しながら前橋や東京など全国16都市で公演を行いました。初日はもちろん前橋。観客は立ち上げって拍手を送って下さった。ああいった意義のあることをタイムリーにできるような施設運営をもっとやってみたかった。

▲ウクライナ国立バレエの県民会館での公演 光藍社公式ホームページより
――県民会館は存続が望ましいと思いますか。
心情的には存続してほしいです。それ以上に財政健全化も重要です。知事もコンテンツ産業の誘致などいろいろな形でソフトウェアを動かしていこうとしています。音楽、文化というのは大切なソフトウェアですから知事も悩んでおられるのでしょう。
存続を見直すとしても、会館をほかの施設に転用するのか、あるいは躯体ごと取り壊して新たな施設を作るのか、さまざまな道があります。まずは知事と立地自治体である前橋市の小川晶市長が議論することが大切だと思います。そして、その過程をつまびらかに市民、県民に伝えなくてはいけません。ブラックボックスの中でどういうことが行われているのか、まったく構想が見えていないから、皆さん、案じておられるんですよ。
前橋も応分の負担は必要
――山本知事は、県民会館を一番使っているのは前橋なんだから、前橋も何らかの負担を、とおっしゃっているようです。
県民会館は県民全体の財産だという前提は、ゆらいではいけないと思うんですよね。 ただし一番経済的便益を受けているのは前橋。県民会館の使用に伴ってホテルに泊まる人、飲食をする人もいる。経済便益が最も前橋にあるのは当然なのですから。
これは県民会館の問題だけではなくて、全ての県内の市町村にある県有施設に言えるのですが県におねだりして施設を作ってもらい、県に運営してもらって、便益は市町村ではおかしいですよね。山本知事のときも大澤知事のときも、僕は県有施設の誘致のときには地域自治体が応分の負担をするべきだとずっと言ってきました。お互いイーブンのパートナーとして。
――ずばり、県民会館の改修に関しても、前橋はお金を出すべきですか?
応分の負担は必要だと思います。そうでなければ市としてアイデアを実施できません。何らかの負担をしてお任せにしないという形が望ましいです。敷島公園の再整備も赤城大沼の整備も県庁~五差路~前橋駅までのコミュニティー道路も連携で進めているからこそ前橋市の意見を述べられる訳ですから。
例えば、「会館は維持します、でもクラシックだけだよ」と言われれば子どものダンス発表会はできません。県民会館で前橋市のアイデアを提案でき、そして便益を市民に分けたいと考えるならば、負担は当然。前橋市もお金プラス知恵を出すべきです。
県都として前橋は県有施設が集合していることで便益を得てきましたが、施設は必ず老朽化します。これからは負担も出てくるんだというのは行政のあり方として当然のこと。サービスには負担が伴うのです。

▲県民会館を東側から望む
負担も知恵も出し合う
――県民会館の存続をめぐり、県民アンケートが行われました。
指標の一つにはなりうるとは思います。ただ、県と市がどういう議論になっているのかわからないブラックボックスの中でのアンケートですよね。
改修費が50億円以上かかります、維持管理費として年1億円以上かかりますといわれて、必要ですかと聞かれてもまったくイメージが湧かないと思います。
改修費によって県の財政がこういう風に変化しますよという具体的なことを示してほしかったですね。50億円というのは知恵をだして減額することも出来るでしょうし、運営で利益を出すアイデアもある筈です。それをもとにして財政をシミュレートした結果を基に検討すれば皆が納得する方針が見えて来るでしょう。
――だから今回のアンケートは指標の一つだと?
そうです。繰り返しになりますが、何より大切なのは、今後のさまざまなことを、両自治体首長がとことん話して、その動きを県民、市民に随時、知らせなくちゃいけないということ。
知事と市長が腹を割って議論し、負担も知恵を出し合って市民、県民に対して「この文化拠点をこうします」というメッセージを出すのが政治だろうと思います。
――負担も知恵も出し合う。大切ですね。
60年計画といって、行政の建物は60年間維持できるように常にお金をかけてきたわけです。そこにかけるのは当たり前なのですよ。 グリーンドーム前橋も修繕基金を積んで長持ちさせているのですから。
改修費や維持費がかかるならそれに伴う収益を上げればいいだけのことです。みんなで知恵を出し合ってね。
私は県民会館の躯体自身に価値があると思っています。うまく改修し、躯体さえ維持できれば、文化ホールだけでなく教育機関にも医療機関にもなり得る。さまざまな可能性が生まれます。
そして、あの価値ある建物を残してきているという県都の市民としての誇りと愛着。感傷的な表現だけど、そこに、最後は大きな意味があると思います。

▲ロビーに立つ分部順治の銅像