interview
聞きたい
【聞きたい阿部智里さん3▶︎】
史上最年少、20歳で松本清張賞
2022.10.26
『烏に単は似合わない』で松本清張賞を獲得した阿部智里さん。史上最年少、20歳で文壇デビューを果たします。受賞にあたってはバッシングがすごかったそうですが、さすが上州生まれの「かかあ天下」。「いいの書いてやるぞ」と気合を入れました。
女子高出身を活かした作戦
―早稲田大学に入り、いよいよ小説家として本腰を入れるようになるわけですね。松本清張賞に再チャレンジします。
初めて一人暮らしをしました。講義もきつくないように履修登録して、執筆と両立を目指しました。
応募作は高校生の時から構想していた八咫烏シリーズの中から、「最終選考に残れるための作品」を考えて選びました。どれだったら評価されるか。歴史物は応募が多くて、難しいだろうなとか。
社会経験の少ない私が太刀打ちできる題材は何かと考え、「女子高出たばかりの自分なら、たぶん他の大勢の応募者よりも女の子の心理は分かるはず」「若い女性が戦う話の方がリアリティーがあって有利だろう」と計算しました。
―デビュー作となる『烏に単(ひとえ)は似合わない』ですね。
当時の応募要項は最初に経歴とあらすじを書かなければなりませんでした。それなら女子大生であることをメタに利用しようかと。
思い切り少女漫画のように始まり、いかにもファンタジー好きな女子が書きそうなものだなと予断を持って読ませる。そして、最後にイメージをひっくり返す展開にしました。
新人賞は作品の完成度より、粗削りでもウワッと思わせるのが肝心。将来性を見るわけで、衝撃を与えることができれば勝ちです。
―作戦はずばり成功。史上最年少、20歳で松本清張賞を受賞しました。書店に本が並んだ時、どんな気持ちだったでしょう。
デビューでき、もちろんうれしかったけど、「やったー」という感じではなかったですね。選評会では非常に厳しいことを言われましたから。
実は最終選考に残るのが目標だったので、そのときの方が純粋に喜ぶことができました。賞は運の要素が強い。他の候補作品との相性もありますし。
勝負は2作目、がんがん書く
―これで小説家としてやっていける、そんな自信にはなりましたか。
「賞を取っただけではプロではない」。そう釘を刺してくれる人がいました。それに当時、バッシングも結構あった。「賞の格を下げた」とか「話題性だけで取った」とか。それを大まじめに捉えて傷つきはしなかったですけど、こんな中でやっていかなきゃならないのだから、「これから大変だ」と覚悟を決めた感じでしたね。
―2作目に向け、気合いが入りましたね。
2作目がだめだと、受賞作はまぐれだと思われてしまいますからね。「よし、いいの書いてやるぞ」と。構想はできていたし、がんがん書いていきたかった。
(写真はいずれも文藝春秋提供)
あべ・ちさと
1991年、前橋市生まれ。荒砥中-前橋女子高―早稲田大文化構想学部—大学院修士課程修了—博士課程中退。デビュー作『烏に単(ひとえ)は似合わない』は史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞した。八咫烏シリーズは累計180万部を突破。