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【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.28】
滑り台
2023.09.17
登山のように、上がり切った達成感の後、一気に解き放たれる開放感。滑り台は2度楽しめる遊具だった。何度も何度もチャレンジしたあの頃。思い出すと、溜息が出てしまう。意味のない行為。健康を維持するためでもない。経済活動でも合理性の追求でも身体表現でもない。何の役にも立たない、シジフォスの岩みたいな繰り返し。あんなに夢中になれる行為が大人になってからあっただろうか。無意味が輝いた事があっただろ上か。公園の滑り台を見かけると、つい懐かしさで胸がいっぱいになってしまう。
近年は、危険だという事で次から次に遊具が姿を消していく。ただ、ブランコ、砂場、滑り台の3種の神器だけはまだ残されている公園が多い。
やがて、ブランコ、次に滑り台が危険視されて撤去されるかも知れない。残るは砂場だけ。全ての公園が砂漠になったら、滑り台がジェットコースターに、ブランコが回転ブランコに取って代わる訳だ。
しかし、遊園地の乗り物は他人が操作するものだ。公園の遊具は自力で参加するものだ。その違いは大きい。
Sakumi Hagiwara
萩原朔美(はぎわら・さくみ)
1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。昨年、世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵された。著書多数。現在、多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長。2022年4月から、金沢美術工芸大客員教授、2023年7月から前橋市文化活動戦略顧問。
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