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【萩原朔美の前橋航海日誌vol.21】
部屋から見える建物
2023.03.03
カーテンを引くと、5棟の建物が目に飛び込んでくる。それを、毎朝撮影する。一日の始まりだ。
なにか目的があるわけではない。習慣になっているので、撮影しないと忘れ物でもしたような気分になってしまう。
写真を並べてみると、空の様子が毎日違うぐらいで、定点観測としては面白味はない。樹だと葉が落ちたり、新緑が輝いたり、雪を纏ったりして様相が一変する楽しさがあるけれど、建造物はほとんど変化しない。
それなのに、何故撮影したくなるのだろうか。急に分かった。同じことを繰り返すといのは呼吸や心臓と同じくリズムだ。ドラマを叩いているのと同じだ。定点観測しているとばかり思っていたら、実は写真で音楽していたのだ。そう考えると納得出来る。10代の頃、ドラマーになりたかったその夢が、無意識の内に撮影行為として噴出したのだ。(笑)前橋生活8年目の後期高齢者の身の上に、これからなにが噴出してくるのだろうか。
Sakumi Hagiwara
萩原朔美(はぎわら・さくみ)
1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。昨年、世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵された。著書多数。現在、多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長。2022年4月から、金沢美術工芸大客員教授、アーツ前橋アドバイザー。