街の想いは、街のかたちになって表現される。前橋駅からの並木道に水飲み場が何箇所も設置されている。道行く人に利用してもらう為だ。欅の木陰で手や顔を洗いのどを潤す。何というこころ配りだろうか。私が今まで暮らした原宿、世田谷、渋谷の道に水飲み場など無かった。
考えてみたら、臨江閣は迎賓館だ。昔から、客を迎え入れることをまず考えるのが前橋流の街づくりなのだろう。
驚くのは、本屋さんにも水飲み場が設置されている事だ。煥乎堂の入り口に素晴らしいデザインの蛇口がある。神社の参拝と同じく、本屋さんに入る前に手を清めるのだ。凄い発想だ。これも、前橋流の迎賓の表現に違いない。
水飲み場は、縁側であり、小さな応接間なのである。
萩原朔美(はぎわら・さくみ)
1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。
俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。
版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。2016年4月から前橋文学館館長。