interview
聞きたい
連載【匠の手】vol.2
「ツルツルぴかーる」で宝物(たからもの)を
漆藝家・千葉功さん
2024.04.23
何もないところからアイデアと技術で唯一無二を生み出す、物づくりの匠たち。前橋にゆかりの匠を紹介するシリーズ「匠の手」。第二回は漆藝家として独立して20年、表面の反射の美しさを大切にする、千葉功さんが登場。
(取材/阿部奈穂子、撮影/七五三木智子)
指紋がなくなるまで磨く
「ツルツルぴかーる」が合言葉。黒と朱色の器の表面がまるで鏡のように反射する。麻布でボディを作り、漆を塗り、砥石で研ぐ。それだけでは光らない。最後の仕上げは指の腹で磨き上げる。
「指が真っ赤になり、指紋がなくなるくらいまで磨くんです」
量産はできない。1年で出来上がるのは1作か、多くて2作。「光らせたときに、ゆらぎのない曲面を作る。そこが一番肝心で大変なところかな」
漆工芸に出会ったのは大学浪人中。「群馬県立近代美術館に展示されていた室町時代の『扇散蒔絵手箱(おうぎちらしまきえてばこ)』を見て、宝物だ、と衝撃を受けた」
漆塗りで、蒔絵というテクニックを使っていることを知り、「宝物を作りたい」の想いで漆工芸を勉強できる大学に進学した。「ツルツルぴかーる」の技術はそこで学んだ。
28歳から前橋住民に
大学卒業後は蒔絵と文化財修復の仕事を5年間務めた後、28歳で、赤城南麓にある中古住宅を買い、工房を構えた。
「前橋は父の仕事の関係で小、中学時代に3年間過ごし、馴染みがあった。漆工芸は工程によって、部屋の温度や湿度など環境を変えなければならない。7LDKと部屋数の多い、いまの家は最適な条件だった」
ものづくりを仕事とするが、もともと器用な方ではない。「漆はトラブルがあってもやり直しがきく。研いで塗り重ねればいい。だれでも必ず、宝物にたどり着くことができる」
作品には華奢で繊細な曲線を多用する。モチーフは木の枝やツル、草など。
「細い枝で大きな葉を支えたり、風が吹いても折れなかったり、それはどういう構造になっているのか」、観察して作品に生かす。
漆藝家として独立して20年。これからも「ザ・宝物を作り続けたい」
ちば・いさお
1975年、東京都生まれ。高岡短期大(現・富山大芸術文化学部)漆工芸専攻・林暁クラス卒。漆藝家、勝又智氏に師事したのち、28歳で前橋市滝窪町に工房「Chiba Urushi Art Studio」を開く。日本工芸会準会員。乾漆技法を中心に椀・皿・茶道具・装身具等を制作