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聞きたい

【聞きたい スプツニ子!さん1▶︎】
香港のアートフェスティバルで 魅せた目玉作品

2022.01.29

【聞きたい スプツニ子!さん1▶︎】
香港のアートフェスティバルで 魅せた目玉作品

様々なテクノロジーによって生まれる可能性のあるモノや思考、ライフスタイル。そんな未来を考察しながら、映像やインスタレーション作品を制作するアーティスト、スプツニ子!さん。テクノロジーはこんなに発達しているのに、なぜ女性は生理の痛みからまだ解放されていないのかという問いから生まれた「生理マシーン、タカシの場合。」、バイオテクノロジーという新しい技術と神話の共存性を問う「運命の赤い糸をはく蚕-タマキの恋」など、取り組む作品のテーマは多岐にわたる。

バイオテクノロジーで生まれた神殿

―2021年11月、香港最大級のアートフェスティバル「deTour」の目玉作品として「Red Silk of Fate(運命の赤い糸)-The Shrine(神殿)」を公開されました。

「つくば市の農研機構の瀬筒秀樹先生と共に開発した遺伝子組換えシルク『運命の赤い糸』を使って、空間インスタレーションを制作しました。神殿のような祈りの場をイメージしていて、これまでの作品の中で一番大きなスケールだと思います」

―展示された会場はどちらですか?

「香港のPMQというクリエイティブエリアです。中央書院の跡地で、しばらく警察宿舎となっていましたが、昨今、デザイナーやクリエーターたちの情報発信スポットとして生まれ変わりました」

―具体的に作品の構成をご紹介ください。

「長さ約27m、幅85㎝の布10枚で空間を構成しています。その布は音と光によって表情を変えます。赤い光とブルーライトに照らされ、オレンジのフィルターを通してみると、蛍光シルクの部分が光ります。蛍光シルクの技術に関することも、展示で紹介しました」

―香港の方々の反応はいかがでしたか?

「人と人を結ぶ赤い糸の神話をテーマにしたコンセプトを、香港の人たちが身近に感じとり、大勢の人が見に来てくれたことを嬉しく感じています。Covid-19(新型コロナウィルス)によりフィジカルで出会う機会が以前より減った中で、人と繋がる価値も問いたいと思っていました」

―運命の赤い糸の意味を、現地の方は理解されましたか。

「運命の赤い糸は、もともと中国の言い伝えなんです。『紅線(ホン・シエン)』といえば伝わります。それが韓国、日本など東アジア全般に広がりました。正直、アメリカで発表したときは、神話のことをストレートにわかってもらいにくかったのですが、アジアの方々はすぐに理解していろいろな想いを抱いてくださいますね」

―香港から展示のお話が来たのはいつですか。

「2021年前半です。かなり前から『運命の赤い糸を使って、神殿のような空間インスタレーションを創りたい』というアイデアは私の中にあったので、具現化するのに最高の機会だと思いました。でもその時、私は妊娠中。制作期間中に出産という大きなイベントがありながら、果たして香港の大きなアートフェスティバルのメイン作品を創れるのだろうか。しかも、コロナで現地に簡単にいけない状況で…。とても迷いました。

でも、『諦めるのはもったいない』という気持ちがあって、お引き受けすることにしました」

香港チームと一つになって

―どんなチームで制作したのでしょう。

「まず、友人が香港の建築事務所『Napp Studio & Architects』のアーロンとウェズリーとつないでくれました。彼らは空間インスタレーションも創っていたし、布を扱った実績も持っていました。そこで私のコンセプトを彼らに共有して、一緒に作品を創ろうということになったのです。

チームで毎週オンラインミーティングをしながら空間を制作。何とか、作品を完成させることができました」

―いろいろ大変なこともあったのでは?

「夏から制作スタートし、9月に長女を出産して、11月末に完成、展示というハードスケジュールでしたので、乗り切れたのが、奇跡でした。

出産は予定より2週間早く、しかも帝王切開。ベッドに横たわっていた期間も、チームが『僕らに任せて』と…。素晴らしい制作パートナーに恵まれたことにひたすら感謝です。

小さなトラブルはいろいろありましたが、最大の不安は、日本で布を作って、香港で展示するため、最後にうまく合うかどうかでした。香港のチームはギリギリまでどういう布が来るのか知らないのです。

これとこれを合わせたら、美味しい料理になるはず、1回も味見していないけれど…っていう状態。結果、本番はピタリと合致しました。運命の赤い糸が私たちと香港チームをつないでくれたのかもしれません」

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