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【昭和高校球児物語-前高 完全試合のキセキ-▶68】
総集編・高校3年春

2023.05.31

【昭和高校球児物語-前高 完全試合のキセキ-▶68】
総集編・高校3年春

闘志と集中 取り戻すナイン

甲子園から帰り、春季県大会を迎えます。「天国と地獄」を味わった前橋高ナインは甲子園での出来事を心でも体でも消化できないままでした。

モチベーションが上がらないまま、序盤戦は苦戦続き。3回戦の伊勢崎工高戦は甲子園での福井商高戦を思い起こさせるようなエラーもあり、敗戦に傾きかける展開となりましたが、かろうじて終盤に逆転します。

この試合がターニングポイントとなり、ナインに闘志と集中が蘇ります。

準々決勝、準決勝と強豪を相手に完封勝ち。いよいよ乗ってきます。

決勝はもちろん桐生高。6回表、0-1からエースで4番、松本稔のタイムリー3塁打で同点に追い付きましたが、その裏、桐生高の伏兵にタイムリーを浴び、1-2で敗れてしまいました。

頂上決戦 またもや桐生高に屈す

関東大会は仁村徹(上尾高-中日)をはじめ、後にプロ野球で活躍する実力派の選手が各校にいました。

前橋高は初戦で上尾高に3-1、2回戦は宇都宮商高に2-1と競り勝ちます。準決勝は法政二高と対戦、ここも4-3でしのぎ、前年秋の関東大会に続いて決勝進出を果たしました。

▲小さな体で連投に耐える松本

▲絶好の勝ち越し機。得意のスクイズが決まらなかった

決勝の相手はまたもや桐生高。ここまで3試合中2試合をサヨナラ勝ちと勝負強さを発揮してきました。

試合は柔の松本稔、剛の木暮洋の投げ合いで両校一歩も譲りません。

4回表、前橋高はスクイズで先制します。桐生高相手に初めて先制、初めてリードします。

勝利がかすかに視界に入った6回裏、木暮の豪快な右越本塁打が飛び出し、試合は振り出しに戻ります。

前橋高は9回表、1死満塁の絶好の勝ち越し機を迎えます。ここで伝家の宝刀、スクイズを敢行しますが、3塁走者のスタートが遅れ万事休す。走者のサイン見落としか、サインミスだったのか。いまだに分かりません。しかし、結果的にはこれがつかみかけていた勝利の女神を手放すことになります。

▲まさかの幕切れ。押し出し四球でサヨナラ負けを喫す

最大の危機を脱した桐生高はこの裏、疲労困憊の松本を攻め立て無死満塁。ここで、抜群の制球を誇る松本がまさかの四球を与え、サヨナラ負け。あっけない結末を迎えました。

松本はダブルヘッダーとなった準決勝、決勝を含め、3日間で4試合を完投しました。

昭和高校球児物語の筆者、主将を務めた川北茂樹は松本のセットからの投球リズムが同じになっていたことに危機感を覚え、牽制球を要求しました。しかし、エースに余裕はありませんでした。

「誰が彼を攻められよう。彼のおかげでここまで来ていたのだ」と本編で綴っています。ナイン全員の思いでしょう。

センバツ甲子園から始まった春はこうして駆け足で通り抜けていきました。