interview
聞きたい
【昭和高校球児物語-前高 完全試合のキセキ-▶61】
総集編・高校1年秋
2023.05.17
県大会 「26の瞳」で制す
春季県大会を22年ぶりに制した3年生が抜けた新チームは2年生5人、1年生8人、総勢13人の弱小校並みの少数編成だった。
当然、全員ベンチ入り。1年生では相澤雄司が捕手、佐久間秀人が一塁、堺晃彦が三塁、松本稔がレフトの定位置をつかんだ。
秋季大会は順調に勝ち進み、準決勝は後にドラフト3位でプロ野球ロッテオリオンズ入りする剛腕投手、広木政人投手率いる富岡高と対戦した。
カーブも習得し、投球に幅が広がった広木投手に対して、前橋高は“口撃”も加えて主導権を握り、4対3と競り勝った。
準決勝は部員数が100人前後いる強豪・前橋工業高。中学時代の実績、体格や体力は前橋高ナインとは比べ物にならない、本気で甲子園を目指すエリート軍団だった。
まともにやればまず勝てない。だが、この試合、さらにお得意の“口撃”がさえわたった。
「ピッチャー、フォアボール出すと替えられちゃうよ。帰ったら罰練習だね」
「お、エラー! あー交代だね。二度と試合に出られないね」
“口撃”の二本柱、相澤と堺は選手層が厚く内部競争の激しい強豪チームのメンバーが一番嫌がる野次を連発、試合に集中させなくした。結果は2対1。前橋工業高は前橋高にすっかり苦手意識を植え付けられたが、最後の夏にきっちりお返しされることになる。
木暮、阿久澤の桐生と決勝
決勝の相手は桐生高校。次のチームで何度も覇を競い会い、ともにセンバツ甲子園に出場することになる宿敵のチームだ。
早くも1年生主体の編成で、後に全国NO.1左腕と称される木暮洋がエース、センバツで王貞治さん以来となる2試合連続本塁打を放った阿久澤毅が中軸を打っていた。
実は阿久澤は前橋高に来る話もあったが、結果的に桐生高に進学した経緯がある。事情を知る前橋高ナインの“口撃”は彼に集中した。
もともと中学の県大会優勝投手であり、桐生高でもエースとなる器であったが、その当時、全県的には無名だった木暮が背番号1を付けた。
試合はもつれた展開となり、中盤から阿久澤がマウンドに立った。桐生高は走者1、3塁からダブルスチールを試みるも、徹底的に練習を重ねた前橋高内野陣の好連携に得点を阻まれた。
4対3。準々決勝からすべて1点差で再び、県王者に輝いた。
秋季関東大会は甲府市で開かれ、ここで上位に入れば来春のセンバツ甲子園出場が有望となる。だが、「このとき、甲子園を意識していた部員は数えるほどだったと思う」と昭和高校球児物語の筆者、川北茂樹は思い起こす。
初戦の相手は神奈川県代表の東海大相模高。前年のチームは現巨人監督の原辰徳をはじめとするオールスター軍団。新チームも有望選手ぞろいだった。
試合は序盤こそ競り合ったものの、次第に引き離され結局は1対6。甲子園は先の話となった。
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