interview
聞きたい
【聞きたい萩原朔美×東出昌大2▶︎】
人生に文章を捧げた朔太郎
2022.11.15
朔太郎忌で行った朗読劇で朔太郎に扮した東出昌大さん。劇の題材となった処女作『月に吠える』は大学生時代に読んだそうです。萩原朔美さんから朔太郎の詩で一番好きな作品を聞かれて答えたところ、朔美さんは驚きの反応を見せました。
余韻が残る強度を感じる
萩原 朔太郎の詩で一番好きなのは何?
東出 『その手は菓子である』ですね。
萩原 知らない。そんなのあった? 中原中也じゃないの(笑)。どんな作品ですか。
東出 女性の手が長く品がよくて、男のごつごつしたのと違う。そのセクシャリティーを変に淫靡(いんび)や官能的な言葉を使わず、もちろん、リアリズムの描写もあるんだけど、比喩表現が豊富で、すごくきれいに描かれています。
萩原 へぇー、今度、読んでみよう。『月に吠える』はいつ読んだ?
東出 大学の授業で。難しいながらに余韻が残る強度を感じました。強度があるというのが傑出した芸術家に共通するのかなと。例えば画家。確かな技術の裏付けがあって独創性を突き進める。ピカソの絵を見て小学生でも描けるとは思わないでしょう。
同じように「竹」でも「猫」でも、小学生が書けることは絶対ない。この強度って何だろうって考えたとき、ゴッホが自ら耳を切ったように、きっと「朔太郎も人生に詩人であることを捧げたからだ」。そう思うと作品に向き合うにあたり、難しいからとあきらめてはいけないなと意識しました
詩人と散文家の違い
萩原 詩人はそう。僕みたいのは散文家だから。詩人と散文家の違いを一言で言うと、詩人は言葉が目的であり、散文家は言葉が手段。同じ言葉を使いながら決定的な差があります。東出さんが言った強度というのは恐らく言葉を目的とするところから出ているのじゃないかな。
東出 言葉を目的とする生き方ってどうなんでしょう。御祖父の朔太郎さんも、お母さまの葉子さんも文章表現をする人生を続けられた。
萩原 人生に文章を捧げる。そんなのできないよ。詩人は一つのことに収れんできる。だけど、僕なんか役者もやりたいし、映画もやりたい。文章は飽きるほど書いてきた。いまは役者で生きようと言ってるけど、だれも認めてくれないのね(笑)。
東出 朗読劇は初めてでしたが、朔太郎が昔書いた詩を声に出して語る。役者としても気持ちのよい経験でした。来年も朔太郎忌に出たいです。朗読劇でなく、収録でもいい。本気で仕事として取り組みたい。
はぎわら・さくみ
1946年、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら演出や映像制作も始め、版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。2016年4月から前橋文学館館長の就任。多摩美術大学名誉教授。金沢美術工芸大客員教授。アーツ前橋アドバイザー。
ひがしで・まさひろ
1988年、埼玉県生まれ。高校時代にモデルとしてデビュー、パリ・コレクションにも出演する。2012年に映画『桐島、部活辞めるってよ』で俳優に転身。NHK連続テレビ小説の好演技で人気がブレイク、映画、舞台と幅広く活躍する。狩猟免許を持ち、みなかみ町などで狩猟をする。
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