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【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.33】「雨が描く山脈」

2024.02.26

【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.33】「雨が描く山脈」

朝から雨が降り続く日は、どの窓からも山は見えない。垂れ下がった雨雲は心を重たくさせる。反対に、晴れて山並みがくっきり浮かび上がると、何故か浮き浮きしてしまう。雄大な美しい山稜の姿は人の心を安定させる何かが潜んでいるのだろう。

前橋の住まいは、北側の窓から赤城山が、南側の窓からは八ヶ岳、御座山が見える。朝の楽しみは、この山脈を眺めることだ。

ところが、先日不思議なことを発見した。カーテンを開けると土砂降りの雨。がっかりして視線を下に向けると、なんと、山が目に飛び込んで来たのだ!雨の滲みが、ベランダの壁面にくっきりと山の稜線を描いているではないか!しかも、この尾根は刻々と姿を変え、時々赤城山になるのだ。まるで、南の赤城山の影が北側の壁面に出現したかのような面白さ。(笑)

この山の出現によって、私の雨天の憂鬱は少し軽減したのである。(笑)

 

 

 

 

Sakumi Hagiwara

萩原朔美(はぎわら・さくみ)

1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。昨年、世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵された。著書多数。現在、多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長。2022年4月から、金沢美術工芸大客員教授、2023年7月から前橋市文化活動戦略顧問。