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【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.51】
窓の向こうの時間
2025.11.04
前橋での生活が10年になった。その間、引っ越しは3回やった。どこに移ろうが、引っ越して最初にやることは、窓からの風景にカメラを向ける事だ。数年間生活していると、どんなに退屈な窓越しの景色でも変化して面白いのだ。
30年前、仙川のマンションに住んでいた時、やはり窓から外をポラロイド写真で撮影していたら、いきなり隣りのマンションが壊されて姿を消した。おまけに、ポラロイド写真というシステムも無くなってしまった。撮影していると、思いもかけない変化が起こるのだ。
「窓は退屈な映画」
と言った詩人がいたけれど、それは撮影していないから退屈なのだ。
前橋文学館の館長室の窓も撮影し続けている。今のところ、外の風景に変化はない。何か起こりそうな予感もしない。それよりも、撮影している私の方が老化が進み激変しているに違いない。(笑)窓を見続けていると思っていたら、実は窓もこちらをじっと見続けているに違いない。私の心の窓が、部屋の窓の視線を感じるのである。その視線を跳ね返すかのように、今日も一回シャッターを押した。
Sakumi Hagiwara
萩原朔美(はぎわら・さくみ)
1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮。世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵されている。著書多数。多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長(現在は特別館長)。2022年4月から金沢美術工芸大客員教授(現在は客員名誉教授)、2023年7月から前橋市文化活動戦略顧問。


