interview
聞きたい
【聞きたい宮田裕章さん1▶︎】
東京とは違う最先端を目指す
2023.02.06
「デジタルグリーンシティ」。何て心地よい響きだろう。デジタル技術を活用した「デジタルシティ」とゆとりある生活や自然を享受する「スローシティ」との融合。「めぶく。」前橋にこれほど合う言葉はないだろう。データサイエンティスト、宮田裕章さんに未来の前橋を占ってもらった。
アートや建築、文化が共鳴
―「前橋BOOK FES」でトークショーに出演していただきました。前橋は初めてでしたか。
いや、何度も来ていますよ。トークの相手をしていただいた建築家の藤本壮介さんが白井屋ホテルを造ってからですね。
地方創成というと、牧歌的な、都市にないものを集めることが多く、それも素敵ではあるけど、前橋は地方でありながら「東京とは違う最先端」を目指した。ユニークだし、かっこいいし、新しい未来があると感じます。
-前橋の都市としての魅力をどうみますか。
前橋は都市でもあり、ただ、とはいえ新幹線の沿線上にない。でも、それがいい。新幹線沿線の都市は既存の大都市化に吸収され続けている。
前橋の未来を考えたとき、このサイズの中に魅力的な可能性があるんじゃないか。まず白井屋を再生させたことが大きい。美しい空間であり、いろいろなアーティストが集った。アートや建築、文化が共鳴する場に未来の可能性を感じます。
―「このサイズ」が一つ、カギを握りますね。
新しい都市のコミュニティーに関して15minutes walk(フィフティーミニッツウォーク)という考え方があります。つまり15分くらいの範囲で歩いて行ける中に生活圏があって、コミュニティーが活性化する。グローバリゼーションという大きな流れに飲み込まれていたものを、人と人との繋がりの中で再構築しながら、未来に繋げていく構成単位ですね。
前橋はその大きさに合致している。ヒューマンスケールな空間といえましょうか。
かつての地域がすべてよかったとは一概にいえない。がんじがらめで限定され、未来を絡み取られる息苦しさがある。若者にとって閉塞感が漂い、未来がみえなくなり、東京に出ていった。
東京にはそういうものはないけど、大量生産、大量消費の中に人が埋もれ込まれていった。
地域を軸に新しいライフスタイルを作るには、単純に昔に戻るのではなくて、心地よい距離感の中で多様なコミュニティーを作っていく必要があります。
「めぶくID」に感じる可能性
―BOOK FESはいかがでしたか。
デジタルの力、「めぶくID」を活用して開いたBOOK FESは素晴らしい第一歩でしたね。本を売るという企画はいっぱいあるけど、そういうのとは全然違う。IDを使って一人一人が好きな本を表明するだけでクリエーションなのです。
この本が好き、と示すだけで友達になれる。これが重なっていくと、新しいコミュニティーが生まれる。本以外にも発展していくだろう。それは離れすぎるとバーチャルになってしまう。小さすぎると、コミュニティーが成長しない。いつも同じ人ばかり。前橋のサイズ感の中で多様なコミュニティーが作られるのは非常に可能性があります。
田中仁さんが白井屋ホテルを造り、東京にない最先端を持ち込んで、都市としての前橋の可能性を示した。そこに、糸井重里さんが今回、BOOK FESの中で多様なコミュニティーを作っていくことに成功した。その取り組みはすごい。
これから、めぶくIDを使って繋がりをどう広げていくか。これからが楽しみですね。
みやた・ひろあき
1978年生まれ。東京大大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。保健学博士。専門はデータサイエンス、科学方法論。慶應義塾大医学部医療政策・管理学教室教授。2025年の日本国際博覧会(万博)テーマ事業プロデューサーを務める。