interview
聞きたい
【聞きたい阿部智里さん2▶︎】
高校の先輩と「運命の出会い」
2022.10.25
小学生から小説を書きながら、きっかけをつかめなかった阿部智里さんに高校時代、「運命の出会い」が待っていました。文藝春秋の編集者をしていた高校の先輩からアドバイスを受けて実力が開花。『八咫烏』シリーズの構想も芽生えました。
「目から鱗」のプロの指摘
―前橋女子高時代に小説家になるための「運命の出会い」をしますね。
2年生の4月、開校記念式典でいまも文藝春秋の編集をされている池延朋子さんが講演されました。ちょうど私自身、迷走していたころでした。新人賞に応募しても箸にも棒にも掛からない状態で、どうしたらよいか分からなかった。
プロの編集者に会える機会なんてそうそうないので、掃除や部活をサボって校長室に飛び込んで話をさせてもらいました。「あなたが書いたのを読んでみたい」とまで言ってくれました。
―それは幸運でしたね。
はい、せっせと書いたのを池延さんに送ると、フィードバックしてくれた。松本清張賞への応募を薦められ、担当のような形にまでなってくれて。プロの編集者の指摘はすべて「なるほど」と納得できるもので、目から鱗が落ちるようでした。ようやく道標が見つかった感じでした。
この時は賞を取ることはできませんでしたが、最終選考の一歩手前まで行きました。池延さんには感謝しかありません。
―応募したのはどんな作品ですか。
後に八咫烏シリーズの5作目になる『玉依姫(たまよりひめ)』のプロトタイプです。山神さまが支配する異世界を示す「山内(やまうち)」という用語がふっと頭の中に浮かんできて、「あっ、これはシリーズ化できるかも」と予感しました。
八咫烏の一族も読んだ人から評判がよく、彼らを主役にしたら、以前、平安時代を舞台にして書こうとして断念した構想もファンタジーとしてできるかも、と思いました。
早稲田に入学、本腰入れて書く
―高校生で出版社と縁ができました。小説家への階段を一歩上ったようですね。
別の編集の方にも相談に乗っていただきました。「実力があってもデビューできない人が大勢いる」なんてこぼしたら、「本当に? 出版社は常に力のある作家を探している。いつでもデビューさせる準備はある。まずは実力を付けなさい」と諭されました。
「そうか、余計なこと考えずに、頑張ればいいんだ」とすっきりして、それまでの焦りが一気になくなりました。
―高校3年になると、受験が控えます。
焦りがなくなったので1年間は小説を書くのをやめて受験勉強に専念しました。いい資料が集められ、小説を書くために必要な勉強ができる環境が整っていると判断し、早稲田大学文化構想学部を第一志望にしました。奇跡的に受かることができて、本腰を入れて小説を書き始めるようになりました。
(写真はいずれも文藝春秋提供)
あべ・ちさと
1991年、前橋市生まれ。荒砥中-前橋女子高―早稲田大文化構想学部—大学院修士課程修了—博士課程中退。デビュー作『烏に単(ひとえ)は似合わない』は史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞した。八咫烏シリーズは累計180万部を突破。
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