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【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.8 ▶︎】
前橋の入口はどこか

2022.02.07

【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.8 ▶︎】
前橋の入口はどこか

自動車社会になってから、鉄道の駅が都市の玄関ではなくなってしまった。高速出口が入口なのか。幹線道路が入口なのか。

東京だと、首都高入口か、羽田空港、あるいは成田空港なのかさっぱり分からない。

もう都市という家には城壁や塀がないから、門も玄関も必要なくなり、出入自由になっているのだ。

コーエン監督の「ファーゴ」に、町の入口を示す大きな看板が登場する。車中から見えるシンボルのキャラクターが不気味で、「W ELCOME TO」の文字が不吉さを感じさせて、ゾクゾクした。入口のデザインによって、街の印象が決まるから重要だ。

前橋の玄関が前橋駅だったらいいといつも思う。解放的で、北も南も駅舎を背にして真っ直ぐに直線道路が未来に伸びている風景が好きなのだ。

北口には一本の樹が、父親のようにひとりぼっちで立ち尽くしている。その孤高の姿が好きで、私は家族の記念写真でも写すように、四年間撮影し続けている。駅の樹を自分の親のように感じる。そうすると、街が我が家のように思えてくるのである。

萩原朔美(はぎわら・さくみ)

1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。著書多数。現在、多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長。