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学びたい
【連載▶2】赤城山と青い空が好き
前橋に高層マンションは必要か
2025.01.04
駅前にタワーマン乱立
師走の盛岡市は雪だった。取材に訪れた記者を叱咤するように時折、強く降りつける。
新幹線の止まる駅前はタワーマンションが乱立していた。高崎駅前よりはるかに多いだろう。
渦中のマンションまでの道すがら、タクシーの運転手が建設ラッシュの背景を説明してくれた。「半世紀前に造成されたニュータウンの住民が中心街のマンションに引っ越してくる。標高が高くて冬は雪かきが大変なんですよ。みんな年をとった。車の運転ができなくなれば不便なんです」。ニュータウンは退去者が相次ぎ、ゴーストタウン化しているという。
「それと…」と口を濁し、転売目的で購入する県外の投資家もいると令和のバブルを嘆いた。
老舗酒蔵跡に高層マンション
10分ほどして到着したのは石垣が残る盛岡城跡公園の近くの紺屋町。秋になると鮭が遡上する中津川が流れ、ほとりには「番屋」と呼ばれる歴史的建造物、南部鉄器や染物の工房、老舗の喫茶店が並ぶ。城下町の面影を残す風情ある街並みは確かに美しい。
通りの中程に仮囲いに包まれた建設現場があった。中低層階の建造物が多い通りで、すでにひと際高く威容を誇っている。これが問題のマンションだ。
もともとは岩手県内で最も古い酒蔵「菊の司」があった。大きな白壁は長く住民に親しまれてきたが、経営の悪化に伴い市内の企業に譲渡されていた。
都内に本社のある事業者によるマンション建設の計画が表面化したのは2023年暮れだった。白壁ともども酒蔵は姿を消してしまった。
「酒蔵が取り壊されたのと同じころ、向かいにあった角打ちの『平興商店』も閉店した。『学校』と呼ばれた地域のコミュニティーの場が消えてしまい、むちゃくちゃ寂しかった。追い打ちをかけるようにマンションの話が聞こえてきました」。老舗蕎麦店「東家」の専務、高橋大さんが1年前を振り返る。
「川べりには高い建物は建てられないはず。せいぜい5、6階かと思っていたら14階だという。このままにしていいのか」。そんな疑問から紺屋町周辺で商売をしている人たちに声をかけ、24年2月、「紺屋町まちづくりの会」を結成した。
マンション計画は法令に触れず、すでに動き出している。反対運動をするつもりはなかった。事業者と住民の話し合いの場を設けるよう市に要望書を出すなど、街並みを保全するための働きかけをした。
岩手山と岩木山取り違え
“事件”が起きたのは24年6月。事業者が配布したチラシは「中津川&岩手山ビュー」と謳い、大きな山の画像を使った。だが、山は盛岡市民のシンボル、岩手山ではなく、青森県の岩木山だった。
「赤城山と榛名山を間違えるのと同じ。馬鹿にされていると、みんな燃えました」。学生時代を高崎市で過ごした高橋さんは分かりやすく説明する。
紺屋町周辺の一部の人たちの問題だったマンション建設は多くの市民を巻き込み、計画の見直しを求める機運が一気に高まった。
だが、結果は変わらなかった。事業者は住民説明会で要望を受け、外観や外構のデザインを可能な限り変更したとして建設を進めている。
前橋のまちづくりから学ぶ
チラシ騒動と前後して、盛岡市で街づくりを考える集会が開かれた。テーマは「盛岡のこれからと、守りたいもの」。障がい者とライセンス契約を結びアート作品を販売しているヘラルボニーが主催した。
講師にはジンズホールディングスCEO、田中仁さんと前橋まちなかエージェンシー代表理事、橋本薫さん、前橋市にぎわい商業課職員、田中隆太さんが迎えられた。3人は前橋市中心街で起きている「めぶく。」事例を熱く語った。
「『民間から街を変える』。そういう発想がすごいなと新鮮に思えた。ビジョンが大切であることも学べた。同時に、盛岡でもできるんじゃないかと勇気付けられました」
集会には盛岡市の内舘茂市長や市幹部も参加していた。高橋さんをはじめ、参加した盛岡市民が感じた息吹はやがて市を動かすことになる。