study

学びたい

【連載▶1】赤城山と青い空が好き
前橋に高層マンションは必要か

2025.01.03

【連載▶1】赤城山と青い空が好き 
前橋に高層マンションは必要か

 前橋市であれば、どこにいても方角が分かる。赤城山のある方が北だ。空っ風は厳しいけど、母なる山はいつも優しく見守ってくれる。いつの間にか、中心街に高層マンションが続々と建てられてきた。高層部の住民は素晴らしい眺望を手にした。だが、見えるはずだった赤城山と青空をなくした人もいる。人口減少時代、高層マンションは果たして必要だろうか。

前橋駅ロータリーに17階建て

 JR前橋駅から北へけやき並木が伸びる。並木の先は青空の下に赤城山が広がる。この景観を愛し、誇りにする市民は多い。
 駅北口を出て右手には2024年3月に完成した27階建てのタワーマンション「ブリリアタワー前橋」が陽光を浴びて輝きを放つ。それより手前、ロータリーの一角は高い工事用仮囲いの中、クレーン車が音を立てて杭打ち作業にあたっている。
 分譲マンション「サーパス前橋駅前」が建設されている。17階建てで2027年3月の完成予定。ブリリアと並びツインタワーのようになる。

▲27階建てのマンションの手前で建設が進む新しいマンション

アンケートで7割超が反対

 ロータリー内にマンションが建設される一報は前橋新聞me bu kuが2023年9月に報じた。読者から賛否の声が数多く寄せられたことから、建設の是非を問う緊急アンケートを実施した。
 結果は反対が7割を超えた。ロータリー内という準公共的な場所であるとして、県都の玄関口にふさわしい、みんなが使える施設を求める声が圧倒的だった。

▲2023年9月前の前橋駅北口。マンションが建設されるロータリー内にはカフェを兼ねた結婚式場があった

 群馬県や前橋市にとってこのマンション計画は寝耳に水だったろう。両者は前橋駅北口から県庁までを結ぶコミュニティーロード構想を進めている。出発点にふさわしい施設を想定していたはずだ。
 前橋市は建設現場を含む一帯にかつてあった旧前橋駅舎と噴水を復元する計画を検討していた。市の歴史的風致維持向上計画が国の認定を受けて景観改善事業に補助金が交付されることになり、これを利用する事業の目玉の1つでもあった。

 市は水面下で事業者に対してマンション計画の見直しを求める交渉を続けた。高さやデザインの要望に加え、低層部に商業施設や公共施設を入居する案も示したが、満足いく回答は得られなかった。

▲旧前橋駅舎と噴水。憩いの場だった

 建設予定地は都市計画法に基づく高度利用地区のほか、前橋市の「JR前橋駅周辺地区計画」に指定されている。建造物は建ぺい率、容積率に加え、用途とデザインが制限されるが、用途は①ギャンブル関連施設②風俗営業③葬儀場-が除外の対象。デザインは周辺の景観を損ねるような派手な原色は望ましくないとされ、通常のマンションであれば問題はない。
 市民からの目立った反対運動も起きなかった。住宅地ではなく、日照権などで直接被害を受ける人がいないせいかもしれない。
 それどころか、マンション建設を後追いした上毛新聞の記事は地元住民の声を拾い、「駅前が格好よくなる」「人が増えて活気が出ればうれしい」と歓迎一色でまとめた。

盛岡市長「いいのかな」

 工事はしばらくして始まった。このまま、何もなかったかのように高層マンションが建つのだろうか。
あきらめも感じていた矢先、初めて前橋市を訪れたある人物が疑問の声を上げた。
 「前橋駅を降りて2つのことを感じた。けやき通りがきれいだったこと。もう1つは駅の敷地内にマンションが建築されていて、いいのかなと思った」

▲高層マンションに警鐘を鳴らす内舘盛岡市長(右から2人目)

 発言の主は岩手県盛岡市の内舘茂市長。昨年10月に開かれた前橋ブックフェスでまちづくりをテーマにしたトークセッションに出席し、冒頭、前橋市の印象を率直に語った。
 同時に、盛岡市の中心街で高層マンション建設が進み、趣きのある街並みの景観が壊されている実態を包み隠さず報告した。
 ニューヨークタイムズで「2023年に行くべき52カ所」に選ばれた美しい街で何が起こっているのか―。師走のみちのくへ旅立った。

 ※冒頭の写真は前橋観光コンベンション協会提供。