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学びたい
前橋はトランポリンの街
ヤマトとともに世界へジャンプ
2024.11.02
野球の聖地は甲子園、ラグビーは花園、トランポリンはヤマト。前橋が「トランポリンの街」として脚光を浴びている。ヤマト市民体育館前橋(前橋市上佐鳥町)では毎年、全日本トランポリン競技年齢別選手権が行われ、今年5月にはパリ五輪代表選考会も開かれた。民間のトランポリン施設も充実し、選手も育ってきている。その裏には、「前橋トランポリンの母」寺門洋子さんの強い思いがあった。
(取材/阿部奈穂子)
生涯スポーツも競技も
「ジャンプしているだけで、うれしく楽しい気分になる。ナチュラルキラー細胞が活発化するんです。全身運動で体幹も鍛えられ、脂肪燃焼効果もあります」とトランポリンの効能を話す寺門さん。
2011年、自費を投じて、前橋市大友町にトランポリン専用施設「ピュアスポーツクラブ」を開いた。下は2歳から上は60歳台まで、約100人の会員が通う。
利用料は、公認普及指導員によるマンツーマンの指導付きで、50分間880円という格安な設定。 「儲けは度外視。前橋にトランポリン人口を増やすことが目的です」
今年4月から市内の中学生の校外部活動にも認められ、約10人の部員が通い始めた。
寺門さんがトランポリンと出会ったのは33歳のとき。仕事や育児で疲弊し、めまい、頭痛、首の痛みなどさまざまな不調を抱えていた。
「一緒にやってみませんか」、ぐんまアリーナでトランポリンを楽しむグループの新聞記事を見て、「これだ」と思った。「3カ月間、背落ち(背中で跳ねること)をしていたら、体の不調が嘘のように消えました」
寺門さんを次の一歩に進ませたのは、同じグループの子どもたちの声だった。
「もっと上手に飛びたい。きれいに飛びたい」。勉強してトランポリン公認普及指導員、競技者を育成する公認トランポリンコーチの資格を次々と取得した。
全国一のトランポリン施設、ヤマト
問題は施設。前橋市内にはぐんまアリーナのほか、トランポリンのできる場所がない。しかも「アリーナのトランポリンは古くて、スプリングも硬い超旧式。これではきれいに飛ぶことはできない」
前橋をトランポリンの街にしたい、という想いが寺門さんの心の中にふつふつと湧き上がってきた。普及には組織が必要だ。2004年に前橋市トランポリン協会、翌々年には群馬県トランポリン協会(現、群馬県体育協会トランポリン部)を発足させ、前橋市にかけ合い、ヤマト市民体育館前橋への設備導入を促した。
多くの人の協力を得て、寺門さんの想いは叶った。ヤマト市民体育館前橋は公式の機材がパーフェクトに揃う、全国一のトランポリン施設となった。全日本年齢別選手権の誘致にも成功し、2018年にはワールドカップ 前橋大会が開かれ、今年春にはパリ五輪の選手選抜会場にもなった。
「毎年5月の全日本には各地から約1000人の選手や関係者が3日間、前橋を訪れます。その大きな経済効果にひと役買えたのもうれしい」と話す。
文科省から表彰
この秋、寺門さんが立ち上げた前橋市トランポリン協会は「生涯スポーツ優良団体」として文部科学省の表彰を受けた。
「いままでの苦労が一気に報われた気持ち」とほほ笑みつつ、「前橋からオリンピック選手を輩出すること。そして、トランポリンの街、前橋を次の世代につなげていくこと。それが自分の使命」と意欲を語った。