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噴水より愛を込めて
前橋駅前にあった男女の像の物語2

2023.01.14

噴水より愛を込めて
前橋駅前にあった男女の像の物語2

噴水の中央に背中合わせで

前橋駅北口の噴水は男女の像が建立してから12年後の1965(昭和40)年7月に完成した。男女の裸像は噴水の真ん中に置かれた。

建立時に並んでいた2人がその後、背中合わせに立たされ、衝立のような壁で遮断された構図は変わらない。男が北を向き、女は南に視線を送る。

▲取り壊される駅舎をスケッチする児童=前橋市立図書館提供、1983年11月

なぜ、そうなったのか。公式な資料が入手できず、歴史に詳しい人に取材したが諸説あり、結局のところどれが正解かは分からなかった。

「戦時中、前橋近郊の若い男たちが前橋駅から出兵した歴史を踏まえ、『平和』の象徴である母なる女性像を駅方向に向けた。『建設』の象徴である男性像は中心市街地の開発促進を託されたのではないか」。なるほど、と思わせる分析は市職員OBだ。

元国鉄マンは違った見方をする。「裸に違和感があった。芸術とはいえ男女が裸で並ぶことに、当時はやはり羞恥心を持つ人が多数だった。そのために分けたのだと聞いた」と記憶を手繰る。

戦後、西洋文化が続々と入ってきた。芸術としての裸像もその一つ。それでもなお、公共施設であり、特に通学で駅を利用する高校生のことを配慮すれば仕方なかった措置かもしれない。

▲整備された北口広場。銅像は目立つ位置に置かれれた=平山利男さん撮影

▲駅から市街地に向かう人を出迎える銅像=平山利男さん撮影

35年ぶりに再会 並んで立つ

近くにいながら顔を見ることさえできなかった2人が“再会”できたのは約35年後だった。

両毛線の高架化に伴い、前橋駅舎が新しくなるのと並行して、1989(平成元)年までに北口は整備され、噴水は撤去された。

2体の像はロータリーの別の場所に移された。現在、井上武士のチューリップの歌碑が置かれている辺り。新しい台座の上に、背中合わせではなく、仲良く並んで駅を訪れる人たちを迎えた。記憶にある人も多いだろう。

▲再整備された現在の駅北口周辺=小林工業提供

2人に再び、転機が訪れた。前橋駅前は2012(平成24)年に再整備され、現在の姿になっている。

像は再び移動させられた。バスターミナルの最北部、植え込みの中にひっそりと隠れるように。存在に気付かない人も多い。

「チューリップ」のBGM流れる

井上武士の歌碑 生誕100周年を迎えた前橋市出身の井上武士の功績を後世に残そうと、1995(平成7)年3月に完成した。代表曲「チューリップ」の楽譜と絵が刻まれた。2014(平成26)年には案内看板が設置され、QRコードをスマホで読み取ると、「チューリップ」のメロディーが流れる。

▲「チューリップ」の楽譜が刻まれた歌碑

▲井上武士の案内板。メロディーを聞ける