interview
聞きたい
【聞きたい田中敦子さん1▶︎】
表現する仕事がしたい
27歳でOLから声優へ転身
2022.05.31
前橋で生まれ育った田中敦子さん。今年で声優生活31年目となる。代表作は27年間演じ続けてきたアニメ「攻殻機動隊」の主人公、草薙素子。女性型サイボーグで、公安9課の現場指揮官だ。ニコール・キッドマンやジュリア・ロバーツなど外国映画のヒロインの吹き替えも多い。表現者としての原点は中学の演劇部と、高校のダンス部だったという。声優になるきっかけを聞いた。(取材/阿部奈穂子)
思い出のオリオン座
―子どものころから映画好きだったのですか?
前橋中心市街地にあったオリオン座によく通いました。母や妹と行って2本立て、3本立てを見たり、父に連れられ東映まんがまつりにも行きました。
父は3年前、91歳で永眠したのですが、亡くなる前、広瀬川クリニックに入院しておりまして。病室からオリオン座のあたりがちょうど見渡せて、「あーあそこに映画館があったね」って父と話していました。実際に行ってみたら、映画館の名残があり写真におさめました。
―そういう経験も今に生きているのですね。
映画館で見るだけでなく、昔は毎日、テレビで洋画劇場が放映されていました。それを家族そろって見るのが日課でした 。
母がドラマ好きでしたので、映画全盛時代の女優さんたち、岩下志麻さん、三田佳子さん、佐久間良子さんの作品を見たり。そういうところからお芝居に興味を持ったのかもしれません。南橘中時代は演劇部に所属しました。
好きな仕事なら一生続けていける
―前橋女子高ではダンス部に所属されました。
ダンスは子どものころから好きで。母に「バレエを習いたい」とお願いしたのですが、どういうわけかイエスと言ってくれませんでした。ピアノや習字は習わせてくれたんですけれど。
高校に入りさえすれば、何でも自分の自由になるだろうって、子ども心に思って。中学時代は一生懸命勉強をして、高校に合格して、ダンス部に入部しました。
―ダンスの魅力とは?
小さいころはとても人見知りで、思ったことを上手に言葉で表現できないタイプでした。口が達者なお友達と言い争いになると絶対負けてしまう。そういうジレンマがあったんですけれど。踊りって言葉はいらないし、肉体だけで表現できるところが魅力でした。
前橋女子高のダンス部では、顧問の山口直永先生から、表現することの楽しさを思う存分教えていただきました。
―大学時代も演劇とダンスに熱中したそうですが、卒業後はその道に進まなかった。
こういうやくざなことからは足を洗うんだと、OLになりました。ダンスは趣味でと決めました。会社では秘書的な業務をしていましたが、これから定年までOLをし続けるのって無理だって思いました。
そして、安定はしていなくても、好きな仕事に就けたなら、やりがいもあるし、一生続けていけるんじゃないかなあと考え始めたわけです。私にとって好きな仕事といえば、ダンスと演劇。
ダンスは高校からOL時代まで、真剣にやり続けて、体にガタが来始めていました。ダンサーは舞台に立てる期間は短くて、のちのちは人に教えることが仕事になります。でも、教えることは自分に向いていません。
―そんなとき、声優の仕事と出逢ったんですね。
踊りを一緒にやっていた方の中に、群馬県出身の声優さんがいらっしゃって、「声優に興味があるんだけど、どういう風に勉強したらいいの?」と伺ったら、「経験がない人を直接、プロダクションに紹介することはできないから、とりあえずどこかで勉強してきた方がいいよ」と、教えてくださったのが東京アナウンスアカデミーの声優科だったんですね。
そこで勉強しまして、その経歴を持って、今、所属しているマウスプロモーションの前身「江崎プロ」の養成所を受験して合格。第六期生になりました。27歳からの再スタートです。
田中敦子さんへ
前女ダンス部の憧れの先輩でした。儚くも美しい踊りはもちろん。その孤高な凛とした佇まいも、女子高生とは思えない存在感でした。声優になられたと聞いて納得。先輩らしい「表現」なのでしょう。変わらず尊敬しています。(前橋女子高時代の後輩 作能小百合さん)
たなか・あつこ
1962年11月、前橋市生まれ。南橘中―前橋女子高―フェリス女学院大卒。声優。東京アナウンスアカデミー声優養成コース修了。マウスプロモーション所属。2020年、第14回声優アワード外国映画・ドラマ賞受賞。文芸あねもねR( http://www.joqr.co.jp/anemone-r/)の活動にも力を入れる。