interview
聞きたい
【どうなる群馬県民会館
6】
前橋文学館特別館長、萩原朔美さんに聞く
2025.03.01

存続の危機にある群馬県民会館について、俳優で、前橋文学館特別館長の萩原朔美さんに聞いた。独特の視点の話が次から次へと出てきた。
(取材/阿部奈穂子)
会館の機能を拡張させる発想
――お芝居をなさる俳優として、群馬県民会館のホールを開放してほしいと思いますか?
ホールならどんなところでも使いたいとは思うんだけど、あまり大きなホールには興味ないんですよ。寺山修司と一緒に「演劇実験室・天井桟敷」をやっていたもんだから、ホールがあって劇があるっていう考え方に全く賛同していないの、実は。「劇場はあるものではなく、なるものだ」という感じ。
あらゆる建物は劇場だと思ってるんです。 教会だろうが、学校だろうが、病院、郵便局、駅、公園、全て劇場になる。
逆に、県民会館のホールも劇場になろうが、博物館になろうが、1日デパートになろうが、一向に構わない。要するに建物があって、それを何かに併用するっていうのが一番いいと思うんだよね。
――さまざまな使い方をするべきだと?
そう。大ホールを維持するために2000人入れようなんて考えて、歌謡界の大御所を呼んだりすると、結局潰れる。収益でペイできないから。
ホールっていうのは、例えば1時間だけが劇場になって、あとの23時間は劇場じゃなくても一向に構わないんですよ。

▲県民会館大ホール
――ホールの使い方のアイデアを出す。そういうスタッフが必要になりますね。
普通、劇場には芸術監督やプロデューサーがいるんだけど、県民会館にはいません。管理者はいるけれど。つまり、ハードウェアの管理人はいるけどソフトウェアの管理人がいないから運営が難しくなる。県民会館に芸術監督を作るべきだというのが私の意見です。
その芸術監督が朝の9時から12時までは小学校のコーラス隊やバザーの会場、昼間は弁当を食べる場所にして、14時から17時までは撮影スタジオ、夜18時から21時までは結婚式場にします、みたいなアイデアを出すんです。

▲萩原朔美さん
――朔美さんならいろいろな考えが出そうですね。
ホールっていろんな利用方法があって、そういうことをイメージするだけで楽しいじゃない。次々といろんな人が来ていろんなことやるっていう。
あそこで小学校の入学式をやって、終わったらクラス対抗紙飛行機大会とかいって、一斉に客席に向かって紙飛行機を飛ばして。一番高く飛んだやつがチャンピオンなんてやったら楽しいよ。
一生に一回、歌謡界のスターになりたいなんてやつがいたら、そいつに貸すのもいいね。1時間2万円とかで。ギンギラギンの格好させて、カラオケで歌わせて。
――東京ドームを草野球に貸し出すみたいに。
そう、スポット当ててさ。俺だってやりたいよ、1回ぐらい(笑)。
敷居が高くて立派なことしかしちゃいけませんよっていうのはダメだね。敷居が高いのを利用するのはいいかもしれないけどね。
敷居の高そうな場所で演奏したり歌を歌ったりすると技術が向上するんだよ。つまんない学校の体育館でPTAだけ集めてやってもダメ。そのレベルの演奏しかできるようにならない。観客には何か偉い人が来るみたいだよと噂立てちゃってさ、そうすればもう学生なんか一生懸命やるよね。
将来、それがきっかけで世界的な演奏家や役者になる人が出るかもしれない。

▲500席の小ホール
建物は古くて、やることは最先端
――芸術監督を入れて、再生したらいいですね。
「日本で一番先端的で面白いことをやり続けていますよ、群馬県民会館は」ってイメージを日本全国に植え付けられれば、「そうか、公立の劇場もこんなに破天荒にいけるんだ」って再認識してもらえる。
名前も、群馬県民会館だから通称GKじゃないけど、なんか新しく作って、シンボルマークもロゴマークも一切変えて、それでワーって新しいことやってるよみたいな感じにする。建物は古ければ古いほどいいね。県民会館があるお陰で群馬の人の流れが全然変わったねってなるといいなあ。
――逆に、県民会館が存続しない場合、前橋にはホールが市民文化会館や公民館などしかなくなります。
そうなったら一番に提案したいのが、JR前橋駅に県民ホールを作ること。群馬県がJRと組んで、前橋駅に駅ビルを作ってそこにホールを設ける。劇団四季もJRと組んで劇場をやってうまくいっているから、前橋でもいけるんじゃないかなあ。
もう一つは敷島の水道資料館というのがあるんだけど、見に行ったらすごくお洒落なんですよ。 真ん中に柱はあるけれど、リーディングシアターならできる。いまは使っていないので、劇場にしてくれってお願いしているんです。ここは、水の供給場所でもあり、市民の心の供給場所でもあるっていう風にして。
県民会館の建物だけは取り壊さず残すとしたら、ここを昭和記念公園にしたらどうだろう。明治村みたいに昭和村にしちゃう。昭和の団地、駄菓子屋とか乾物屋とか昭和の古い建物をこの地域に移築して、日本の中の昭和みたいな感じの観光名所にするのもいいね。

▲県民会館の奈落。舞台の真下のスペース