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【どうなる群馬県民会館▶1】 
「群馬県民会館の存続を願う会」代表、山田哲夫さんに聞く

2025.01.21

【どうなる群馬県民会館▶1】 
「群馬県民会館の存続を願う会」代表、山田哲夫さんに聞く

 明治百年を記念し、1971年に誕生した群馬県民会館(ベイシア文化ホール)が存続の危機に瀕している。4月から休館する。昭和百年の節目にあたる今年、明治百年記念の県民会館の廃止が決まるとしたらあまりにも皮肉だ。大きな理由として群馬県は老朽化を挙げる。改修に多額の費用がかかり、運営、維持費も負担だという。
 お金の問題だけで、県民会館がなくなってもよいのだろうか。2000人規模の大ホールは多くのミュージシャンやアーティストが訪れ、本物の文化芸術に触れられる貴重な場だった。600人規模の小ホールは県民の発表の舞台として大活躍した。石造りの建物は日本を代表する建築家、岡田新一さんの価値あるデビュー作でもある。
 県庁所在地に県立の文化ホールの無い都道府県は青森、大阪、長崎、沖縄などごく少数。ここに群馬も加わるのだろうか。
 さまざまな立場の人に意見を聞いた。第一回は「群馬県民会館の存続を願う会」代表で「前橋第九合唱団」団長の山田哲夫さん。
(取材/阿部奈穂子)

創立52年 前橋第九合唱団も存続の危機

――2021年、県民会館存続の署名を集め、県に提出しました。

 改修工事が行われるはずだった群馬県民会館に対し、2020年、山本一太知事は一転して「廃止を検討」という方針を打ち出しました。寝耳に水です。前橋第九合唱団メンバーや県内の音楽、美術団体の方々と共に「群馬県民会館の存続を願う会」を作り、箏曲家、鈴木創さんが代表を務める「群馬県民会館を守る会」と一緒に署名活動をしました。2カ月間で、2万筆以上の署名が集まりました。

 前橋市民が多いだろうと思っていたのですが、4割近くは市外や県外の人で、県民会館が広く愛されているのを実感しました。

――前橋第九合唱団にとって県民会館はなくてはならない場所だそうですね。

 1973(昭和48)年の発足以来、県民会館大ホールで公演を続けてきました。来年度から大ホールの使用受付は中止になってしまったので、やむを得ず、前橋市民文化会館大ホールを予約しました。

 県民会館大ホールは2000席ですが、市民文化会館大ホールは1200席しかありません。1600席分の入場料収益を得られないと赤字になります。前橋第九合唱団は公的機関からの支援を一切受けず、自主、独立の運営を続けているため、来年の公演が大赤字になれば、存続は難しいと思っています。半世紀以上にわたり、延べ1万人以上が歌ってきた合唱団の歴史に終止符を打たねばならないかもしれない。まさに崖っぷちです。

 昨年12月の公演では、1971年、群馬県民会館のこけら落とし公演で演奏された曲「交響詩曲ぐんま」を歌い、県民会館の存続をみんなで願いました。その願いが届いてほしいと切実に思っています。

▲52年の歴史を持つ前橋第九合唱団。県民会館で公演を続けてきた

ホール難民、文化難民増える

――同じように困っている団体も多いのでしょうね。

 群馬県吹奏楽連盟は、コンクール会場として県民会館を「吹奏楽の聖地」として利用していました。県民会館が無くなるということは、聖地を失ってしまうわけです。

 海外のオペラやオーケストラ、バレエのほか、歌舞伎の公演なども行われてきたので、県民は本物の芸術文化に触れる機会が減ります。

 約600人規模の小ホールに関しては、幼稚園、保育園の入園式や卒園式、地元の芸術団体の発表の場、企業や学校の式典などに、便利に使われていましたが、2022年から使用停止になっています。市民文化会館の小ホールに需要が押し寄せ、予約が取りにくい状況で困っているという声をあちこちから聞いています。

――高崎芸術劇場とGメッセが大規模ホールとしての役割を担えばいう声もあるようですが。

 そもそも、Gメッセは生の音楽を演奏するには不向きです。ロックなどマイクを使った音楽の演奏は可能だとしても。

 高崎には高崎芸術劇場と1900席の群馬音楽センターがあります。いずれも高崎市が運営するもので、それがあるからといって、県が運営する県民会館を壊そうとしているのには納得がいきません。

 高崎と前橋、両方に拠点があるのが望ましいのです。県民会館が無くなると、前橋以北や東毛地域の人たちは高崎まで移動する負担も大きい。特に高齢者にとっては困難で、結果的に文化を享受できる機会が減るのではないでしょうか。

▲約2000席の大ホール

――子どもたちにとっても身近にホールがあり、文化芸術に触れられることは一生の財産になります。

 県民会館で幼いころからさまざまな公演を見て育った子どもたちが、成長し、オペラ歌手や楽器演奏者として世界に羽ばたいている姿を、身近に見ています。

 半世紀以上もの間、県自身が県民文化の殿堂として認め、存続検討開始の直前まで活発に利用されてきた県民会館を、財政効率化の観点から廃止しようとするのは突飛で不自然に映ります。

 将来を担う子どもたちのためにも県民のためにも存続を願います。

▲「群馬県民会館の存続を願う会」代表の山田さん(写真左)と副代表の伊藤靖彦さん