interview

聞きたい

【聞きたい片山ひろさん】
上州キュイジーヌは商標登録

2023.11.09

【聞きたい片山ひろさん】
上州キュイジーヌは商標登録

 スペシャリテは「OKIRIKOMI(おきりこみ)」。「YAKIMANJU(やきまんじゅう)」もフランス料理にする。「上州キュイジーヌ」を掲げ、地元食材に新たな魅力を吹き込むザ・レストランの片山ひろシェフ。「前橋愛」の塊りは美食の街を夢見ている。

地元の人が誇れるレストランに

――まえばしガレリアに新しいフランス料理店「セパージュ」ができましたね。

開店してしばらくして、スタッフと伺いましたが、料理もペアリングもサービスも、本当にスキがなかったのに驚かされました。

フランス料理というと、豪華絢爛な王家の料理が象徴的ですが、店内は茶室のようにまったく無駄のない研ぎ澄まされた雰囲気でした。

――白井屋ホテルの「ザ・レストラン」は12月で3年になります。

3年、経ったんですね。

開店当初は重圧と喜びでいっぱいでした。監修していただいた川手(寛康)シェフを迎えてのイベントがあったり、VIPが連日のように訪れたりで。

白井屋ホテルが前橋市のビジョン「めぶく。」を象徴する場所でしたので、食の象徴になるぞという自覚を持って研鑽してきました。

自分はオーナーシェフをしていた時期がありましたが、ザ・レストランの開店前は2年半、修業をしていて、料理をお客さまにお出しすることができなかった。そういう意味で喜びもありましたね。

――地元の人に食べていただくのは何よりの喜びですね。

「前橋愛」が僕の原点です。最も大事にしているところです。地元の食材を愛し、料理にする気持ちはどのシェフにも負けません。

郷土の素晴らしい食材をオマージュし新たな解釈で再構築しようと掲げている「上州キュイジーヌ」。実はずいぶん前から商標登録しているんです。

▲開業3年を迎える白井屋ホテル

▲「上州キュイジーヌ」を掲げる片山シェフ

――東京やフランスで修業した片山シェフが地元に戻ってきたのも前橋愛のためですね。

尊敬するフランスの伝説のグランシェフ、フェルナン・ポワンの言葉にこんなのがあります。

「若者よ、故郷へ帰れ。その土地の市場に行き、その土地の人たちのために料理を作れ」

歴史に名前を残した有名な料理人たちがその言葉を守り、自分の故郷に帰り、それぞれが三ツ星シェフになったのです。みんながパリを目指すのではなく、故郷で表現しました。

学生時代、リヨンの郊外にあるヴィエンヌという小さな町のレストラン「ラ・ピラミッド」で研修しました。実はここはポワンが創業した店なんです。

フランスでは町の人がいいレストランを誇りにしてくれる。ザ・レストランもそんな店になりたいと考えています。

▲片山シェフ創作の「YAKIMANJU」

▲ザ・レストランのカウンター。オープンキッチンになっている

ヒラメに続いて「まえばしフグ」

――ザ・レストランでは食材はすべて前橋市を中心とした県内から調達していますね。

僕は出汁の昆布、鰹節以外はすべて地元からです。ニジマスにアユ、イワナ、ヤマメと素晴らしい川魚がそろっています。

海の魚は「まえばしヒラメ」を使っています。どこのヒラメか。文字通り、前橋産です。市内に本社のある会社が前橋工科大と連携して内陸養殖をしています。養殖なので希望する大きさのものが1年中、安定して手に入る。しかも生きたまま。味もいいんです。

この会社はフグの養殖にもチャレンジしています。近い将来、都内から「前橋にフグを食べに行くか」なんて人が現れるかもしれませんよ。

――それは楽しみですね。素晴らしい食材があるから、地元産を大事にするのですね。

食材に関してはクオリティーの高さ、美味しさはもちろんですが、プラスして「人」=生産者で考えます。レストランや調理人のことを考えてくれる、情熱的な生産者に支えられています。

それと、上州は粉物の文化があります。これも大事にしたい。

「OKIRIKOMI(おきりこみ)」はスペシャリテにしています。幅広の麺に生ハムを載せ、下仁田ネギやコンニャク、ダイコンにゴボウの泡ソースを合わせた逸品です。夏は冷製にしてお出ししましたが、秋冬はリメイクしています。

「YAKIMANJU(焼きまんじゅう)」も本来のテイストを一度分解してから再構築します。でも、プラスアルファはしないで、味噌風味のブリュレにしています。

――おきりこみ、焼きまんじゅうがフランス料理になるとはうれしいような…。芸術的ですね。芸術といえば、白井屋ホテルにしても、まえばしガレリアにしても素晴らしい建築であり、アートに囲まれています。

僕がお世話になった辻調理師学校の創設者、辻静雄さんは「料理は芸術であってはならない。しかし、料理は最も芸術に近いものである」と言っています。共通性があるのだと思います。

せっかく、恵まれた立地にあるのですから、建築とアートと料理を単純な足し算にするのではなくて、掛け算にも乗数にもして提供していきたいです。

都内からに加え、外国からのお客さまも増えています。同じような楽しみ方をされますね。地元の方にも喜んでもらっています。これがうれしい。

白井屋とガレリアをはしごする方もいるでしょう。

――片山シェフの夢を聞かせてください。

料理人として、前橋をスペインのサンセバスチャンのような「美食の街」にしたいと願っています。それには、ザ・レストラン、そしてセパージュの2店だけでなく、あらゆる業態の飲食店が地元の人、そして訪れる人にとって魅力的であればと思います。

僕らが旗振り役となって盛り上げていかなければならないと自覚しています。自分自身、そうやってシェフとして「めぶく。」ことを目指しています。

(写真提供・木暮伸也)

かたやま・ひろ 1985年、高崎市生まれ。帝国ホテル、フランスの店で修業後、高崎市に自身の店を開店。「フロリレージュ」など国内外の名店で2年以上にわたり研鑽を積む。2020年12月、白井屋ホテルの開業に伴い「ザ・レストラン」のシェフに。

店舗情報

the RESTAURANT(ザ・レストラン) 

お問合せはこちら
027-231-4618
営業時間 12時~14時30分(土曜、日曜のみ)、18時~22時
定休日 年中無休