【聞きたい　ポール・ニクソンさん▶１】
マエバシはチャレンジング

――初めて前橋を訪れたのは？

「2019年、前橋通のアメリカ人の友人に連れて来てもらいました。東京や京都のようなツーリスティックな都市とは違い、日本の地方都市のリアリティを感じました。私はロンドン、パリ、サンフランシスコのようなクラシカルな大都会も好きですが、個性のある地方の街を訪ねるのも大好きです。初めての前橋では、建築中の白井屋ホテルを見学したり、かつてのにぎわいを取り戻そうと、街中でいろいろな取り組みが行われていることを知りました」

――建築中の白井屋ホテルを見てどう感じましたか？

「当時はコンクリートの躯体が露わになり、階段を作っている途中でした。その時はまだお会いしていなかったのですが、田中仁さん（JINSホールディングスCEO）という人が地元である前橋に新たな息吹を吹き込んでいると聞き、このホテルは非常に大胆で美しいステートメント（宣言）のように感じました。建物からパワーがみなぎっていました」

――商店街で大人買いをされたとか。

「双子の男の子のお土産にと、中央通りの『黒田人形店』でトミカを買いました。500ドル（６万円）ぐらい。ちゃんとボックスに入ったミニカーを初めて見ました。アメリカではそういう売り方をしていないので。量販店のような大きな資本の店を否定するわけではありませんが、街の小さな個人店に出会うとうれしくてつい応援したくなります。なぜなら、それを生きがいとしてパッション（情熱）を持って経営している店主さんやファミリーがいるから。前橋には職人気質のオーナーが経営するコーヒーショップもあちこちにある。質の高い個人店が集積しているのも魅力です」

――食で印象的なのは？

「中央通りのイタリアン『グラッサ』です。オーナーシェフの（澤井）雷作はエネルギーに満ち溢れている。なぜかというと彼は料理をするという行為を愛していて、パッションが絶えることはないから。雷作はたまたま前橋を選んだけれど、彼はどんな土地でもやっていけるんじゃないかな」

――赤城オートキャンプ場でバーベキューもされたそうですね。

「楽しかった。私はアリゾナ州のテンピという街に生まれ、近くに山や砂漠の広がるエリアで育ちました。15～20分車を走らせると、大自然に触れられるってすごくパワフルなことだと思います。あっという間に違う世界に身を置ける、現実逃避もできる。前橋も山や川があり、とても自然に近い街。親近感を持ちました」

――その後、前橋には２回訪れています。変化を感じますか？

「常に次の世代が育ってきている感じがする。引退していく人と新しく入ってくる人、絶えず循環が起こっているのを目の当たりにしています。これはコミュニティーの活性化には不可欠なこと。

大都市は土地が高いし、生活費も高額。都市のサイズが大きすぎると循環が生まれづらい。前橋はある意味、実利的。ビジネスを始めるハードルが低く、物価も手ごろなので生活もしやすい。この地で小さく始めたことが、数年後、大きなビジネスに成長するかもしれない。そういうチャレンジングな土地柄だと思います」

――建築やデザインについてはどうですか？

「新しいプロジェクトが実際、カタチになっていく様を見られるのは、いまの前橋の大きな魅力でしょう。古いものもしっかり残っている。古いものを通して、街のカルチャーを知ることができるし、新しいものが作られることで活気が生まれる。前橋は古いものと新しいものがちょうどいい具合に同居していますね」