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【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.58】
前橋の広い空と飛行機雲
2026.06.07
「地平線、今日はどこまでいったやら」
寺山修司戯曲「毛皮のマリー」の中に出てくるセリフだ。観客は爆笑した。この芝居は、美輪明宏さんが主演。現役の銀座のゲイバーのママが多数出演した。
冒頭のセリフは、新宿のゲイバーのママが演じた人物が発したもの。自分の子供の頃のエピソードを独白するシーン。学校の図工の授業で画用紙に1本の地平線を引いたら、紙からはみ出して机、机から廊下、廊下から校庭、校庭から街へと出て行って、そのまま大人になったと言った後に、「地平〜、今日は、どこまで〜いったやら〜」と歌うように嘆くので、笑いを誘った。それは、なんの問題もなく学校を卒業して就職するコースから逸脱した、ママの人生を象徴しているエピソードに思えて面白かった。
空を見上げた時、飛行機雲が長くたなびいていると、このセリフを思い出す。誰かが画用紙をはみ出して書き続けている地平線に見えるのだ。私もまた、いまだにウロウロと街を彷徨って地平線を書いているなあ。そう感じるのである。
前橋の広い空には飛行機雲がよく似合う。ずっと見ていると、やがてゆっくりと消滅する。流れるように一筋が空に吸い込まれる様子は美しい。新宿のゲイバーはもう無い。ママの消息も消えてしまった。
Sakumi Hagiwara
※萩原朔美さんが前橋に来てから10年間、スマホを片手に散歩しながら前橋のまちを撮影した写真を集めた「音楽する写真-萩原朔美の前橋10年」は前橋文学館で開かれています。詳しくはこちらから。
萩原朔美(はぎわら・さくみ)
1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮。世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵されている。著書多数。多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長(現在は特別館長)。2022年4月から金沢美術工芸大客員教授(現在は客員名誉教授)、2023年7月から前橋市文化活動戦略顧問。


