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石井さん(前橋清陵高)最優秀賞
第13回高校生JOMO小説
2026.01.28
「第13回高校生JOMO小説」(上毛新聞社主催)の最優秀賞に前橋清陵高2年、石井菜穂さんの「後ろ姿」が選ばれた。2人の仲の良い女子高校生のある日の出来事から、多感な2人の心境を細やかかつ軽やかに描写した短編小説。揺れ動きながらも変わらぬ友情を確認する青春を爽やかに描いている。
女子高生の友情 爽やかに
「朝、新聞を広げる人、ほとんどが大人だと思いますが、読んで明るい気持ちになれるようなストーリーにしました。高校時代はこんなことを考えていたな、なんて思い出してもらえたらと考えました」。執筆の動機、狙いを明確に語る。
▲「調べごとはAIは使わない」と話す石井さん
2歳上のお兄さんの影響で幼いころから読書好き。小学校高学年から自分で考えたキャラクターに会話させる物語の台本のようなものを書いていた。
「小説らしいものを描くようになった」のは中学3年から。「読むのは東野圭吾さんのミステリーが好き」だが、自身で描くのはSFが多かったという。友人や祖父母に読んでもらっていた。
高校生JOMO小説は昨年に続いての応募。前回は優秀賞を獲得、今回は頂点に立った。「素直にうれしい。設定を捻った別の作品も提出したけど、じんわり温かみのある作品を選んでいただいた」と喜んでいる。
高校では演劇部に所属、シナリオを担当している。
授業は「倫理」が好きで、将来は社会科の先生になるのが夢。「受験性になるのでまずは勉強を頑張ります。小説はこれからも楽しみながら書いていきます」と肩ひじ張らずにこやかに語る
17篇応募、女子が上位に
高校生JOMO小説は県内の高校生を対象に毎年行っている。優秀賞は長山穂乃花さん(太田女子3年)の「シタイを埋めた日」、小島よつ葉さん(渋川女子2年)の「かげ」が選ばれた。17篇の応募があり、選考は上毛新聞掌編小説選者の舩津弘繁さんが担当した。
『後ろ姿』
石井菜穂さん(前橋清陵高2年)
小学生の頃から仲が良い友達がいる。名前は凛音。
性格は私とそこまで似ていない。話し始めたきっかけもただ席が近かったというだけ。共通点というのもカピバラの同じキャラクターが好きだった……ということくらいじゃないだろうか。私はテレビゲームをするが凛音はやらない。私は小説が好きだが、凛音はマンガの方が好き。何故仲が良くなったのかはあまり覚えていない。ただ、『同じくらい』であることに安心感を覚える瞬間が何度かあったことはしっかり覚えている。
例えば、五十メートル走の記録は二人とも八秒台。成績表を見比べてみてもそんなに変わらない。なんかすごいね、と笑い合った。
趣味が合うというよりは波長が合う、間が合う、という方が私たちには似合っている。だからこそ今だけではなく、これから先もずっと仲良くいられる自信がある。
さて、私はそんな凛音と同じ高校に進学することができた。クラスが一緒にならなかったから話す機会も少ない。それでもときどき一緒に楽しい時間を過ごすことができていて、やはり同じ学校に進学してよかったと思えた。
ある日のこと。校内を歩いていると音楽室の方からすてきなピアノの音が聞こえた。音楽の先生が都合のいいときには昼休みに音楽室を開けていてくれるんだったかな。音楽が大好きな生徒がピアノを弾いているという話を聞いたことがある。全然興味はなくて行くつもりはなかったのだが、何か導かれているような気がした。暇なので行ってみようか。
この音を奏でているのは一体誰だろうか。先生かな。先生は綺麗な演奏をする人だ。可能性は高い。階段を上っていく度に音が近づいてきて、期待感が高まっていく。
しかし音楽の先生は教壇の方で三人の生徒と話をしていた。私が入室したことに気が付くと、笑顔でこちらに手を振ってくれた。先客との会話が盛り上がっているようではあったが、私がやって来たことに対してうれしそうだった。
……ピアノを弾いているのが先生ではないのなら誰なのだろうか。生徒か。音のする方を見る。
ん? ……凛音だ。
確かにピアノを習っていると言ってはいた。中学生の頃……私は凛音に、校内で開催されていた合唱コンクールで伴奏をすればいいじゃないかと提案をした。でも凛音は「私よりじょうずな子がいるから、やめておくよ」と苦笑いをして言った。思えば凛音のピアノを聴くチャンスはあのときだけだったかもしれない。それを逃した私は結局聴けないままでいた。……まさかこんな形で聴くことができるとは思ってもみなかった。
私は凛音の近くにある椅子に座る。そしてピアノを弾く凛音の姿を後ろから眺めている。私の目は簡単に奪われていった。
譜面台に楽譜はなかった。今この瞬間、凛音は何にも囚われることがなく、思い描いたものを表現しているのだった。頭の中から指先に伝わっていくチカラ。なめらかで、雄大で、弾みがあって、芯がある。その音の中で私は時間の経過も忘れてしまった。なんとなく椅子に座っていたが、聴いているうちにだんだんと、姿勢を正さなくてはいけないような感覚になった。
別に特別綺麗なスーツやドレスを身にまとっているわけではない。特別壮大なクラシックを弾いているわけでもない。それはいつも通り。しかしそうではない。私の隣でよく笑っているあの姿とは違った。この感情は、凛音に対して生まれたものとして初めてのものだった。感動という言葉で片づけていいのだろうか。
しかし同時に別の感情もわいてきた。……なんか、私ってひどい人なのかな。友達の特技をすなおに褒めることができないのだ。どうしても、置いて行かれてしまった気がしてならない。この感情は一体何なのか。憧れ、興味、焦り、孤独、色々な感情が混ざり合った頭では深く考えることができない。ただ、その音にとりこまれていくだけ。
違う人間なのだと理解しているつもりだった。でも、身近だった友達がすごく遠く離れていってしまったようでもあった。
なんとなくは理解しているつもりだった。違う道を歩んでいくということ、疎遠になっていく可能性があること。……具体的な近い将来が目の前に見えてくる。でもそれもすぐにピアノの音にのまれていく。
なんとも言葉で言い表せない不安と、奏でられている音の心地よさが交互に私を襲ってくる。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ると、凛音はピアノを弾くのをやめて立ち上がった。そして後ろに私がいたことに気づくと、少し驚いた後すぐに笑顔を見せた。
「聴いていてくれたんだ。『来たよ』っていってくれればあんたの好きな曲でも弾いたのに」今までの光景が夢だったと思ってしまうほど、凛音は私が知っている凛音だった。いつもの調子で、私と『同じくらい』の。
「……別に、勝手に聴いていただけだから」
「ん? なんか落ち込んでる?」
凛音が私の顔を覗き込む。
「そんなことないよ。ただ……演奏がすごいなって思って。凛音ってこんなにいい演奏ができるんだね、びっくりした」
「おー、それはありがとう。……お互い様だね。私もあんたにいつもびっくりさせられてばかりいるんだよ」
「え?」
「だって……いや、待って。授業始まっちゃう! あとで話す!」
私たちはひとまず授業に出席したのだった。
……放課後、掃除が終わったことを見計らって凛音がこちらの教室に入ってくる。適当な席に座ると「お昼の続き」と言って話を始めた。


