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【萩原朔美さん×中村ひろみさん対談】
前橋文学館30周年記念とは
これからの30年を考えること

2023.08.23

【萩原朔美さん×中村ひろみさん対談】
前橋文学館30周年記念とは
これからの30年を考えること

1993年9月3日に開館した「萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち前橋文学館」は、間もなく開館30周年を迎える。開館当時から館外との交流は多かったが、2016年の萩原朔美館長就任以来、その動きは加速され、映像や音を多用した文学の展示やリーディングシアターの導入などで、文学館のあり方に大きな変革をもたらした。先端をゆく前橋文学館にとって開館30周年とはなんなのか、萩原館長と第一回からリーディングシアターの企画にも携わる演劇プロデュースとろんぷ・るいゆの中村ひろみさんとで語り合った。
撮影/前橋文学館

「詩のまち」だから生まれた前橋文学館

萩原:前橋は多くの詩人を生み出した「詩のまち」、これはゆるぎない事実。だから「前橋文学館」が建ったんだと思うんだけど、30周年記念ってなにかっていうと、これまでの30年も大事だけど、これからの30年がもっと大事ってことだと思うのね。今後どうしていくか、見る側も見せる側も、双方が考えなきゃいけない。

中村:前橋に住んで、地域にこだわった芝居や雑誌を作ってきた私から見ると、前橋文学館は設立当時から外部とのつながりが強かった。当初は朔太郎に直結する萩原朔太郎研究会(1964年発足)や、前橋文学館友の会(1995年4月発足)、やがて朔太郎を核にしたまちづくりを考えるNPO法人の波宜亭倶楽部(2000年6月発足)が関わり、最近では詩人を中心に多分野のアーティストが参加する芽部(2011年7月発足)と一緒にさまざまな企画を生み出しています。2016年に朔美館長が登場してくれたおかげで、リーディングシアターや展示に関わる朗読などで、我々演劇人も頻繁に出入りするようになりました。

文学館という出来事―多様な人々とのつながり

萩原:それはそうだね。これからの時代は文学館だけじゃなく、さまざまな展示が立体化されていく。僕も「文学館はひとつの出来事である」って言い続けてきたし、出来事としてあらゆる人たちとのコラボレーションがさかんになればいい。
そのコラボはアーツ前橋や図書館や博物館、学校とも必要。まちなかでの「朔太郎音楽祭」として今年もマンドリンの演奏会が行われるけど、文学館もこれからは音楽家やダンサーともっとつながれるといいね。

中村:文学が紙の上だけでなく、映像化され、身体化され、音声化されていくということですね。30周年記念コンサートには伝説の楽器といわれる「オンド・マルトノ」を演奏する原田節さんとジャズピアニストの谷川賢作さんが登場します。

萩原:なぜ賢作さんかというと、彼は詩を音楽にのせて聞かせてくれる、そうなると、詩の展示は音の展示でもできるってことになる、だから谷川賢作さんに登場してもらうんです。ありがたいことに、もう予約は満席なんだけど。

中村:早いですね。

▲昨年の「イエスタデイ」の稽古風景

萩原:リーディングシアターも文学の身体化、音声化だからね。僕が毎夏、清水邦夫さんの「イエスタデイ」上演にこだわるのは、たしかにテーマは反戦だけど、反戦の文字ばかりが前面に出ても人の心を打たない。あそこに描かれているのは家族だったり友人だったり恋人だったり、愛し合うものたちなのね。それを役者の声と身体で表現するから、伝わるものがあると思う。

中村:リーディングシアターは役者が台本を持ってますし、文学館の音響・照明は簡素なので凝ったことはできない。シンプルだけど、その分、セリフや役者の演技を生かした演出を毎回考えないといけないので、とてもチャレンジのしがいがあります。何度も足を運んでくれるお客様も、そのあたりがわかっていて、なにもないところでどれだけの工夫を凝らすか、来る度に楽しみにしています。

新しいことは前橋から―リアルな劇場とメタバース文学館

萩原:今後の前橋文学館を考えた時、僕は小さくていいから、萩原恭次郎と伊藤信吉の分館がほしいと思っているの。この二人は、朔太郎にとっても、前橋にとっても、特別な詩人だから。
それに加えて、小さな劇場がほしいよね、いつでもリーディングシアターが観られるような。「まえばし99人劇場」みたいなさ、100人定員くらいがいいと思うんだよね。

中村:実現してほしいです。前橋は劇団や演劇ユニットが多いんですが、これは「詩のまち」であることと、もともと製糸業がさかんな「ものづくりの気風」が影響してると思ってます。でも拠点劇場が無くて、バラバラに上演されるので、地元の人にも、他地域からも「多い」って印象がもたれにくい。だからここに行けばいつでも観られるという劇場がほしいです。
ただコロナ禍を迎えて、リモート稽古やオンライン演劇という手法も活用できるようになって、むしろ東京など地域を超えた連携も増えつつあるんですよ。

萩原:だから30年後の前橋文学館を考えるとね、メタバースははずせないよね。そこに入っていくと、朔太郎を紹介する部屋があったり、恭次郎の部屋があったり、こっちでは詩の朗読をやっていたり、もう文学のデパートみたいな。誰でも入れて、当然、世界に開かれているわけだから、多言語化も必要になる。

おそらく、あらゆる文学館がメタバースに移行するだろうから、まずそれを前橋文学館がやらなきゃいけないと思う。

中村:新しいことはいつも、前橋から、ですね。

はぎわら・さくみ

1946年、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら演出や映像制作も始め、版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。2016年4月から前橋文学館館長の就任。多摩美術大学名誉教授。金沢美術工芸大客員教授。2023年7月から前橋市文化活動戦略顧問。

なかむら・ひろみ

東京都出身・前橋市在住。明治大学文学部演劇学科卒業。1992年から演劇プロデュースとろんぷ・るいゆ主宰として、劇場以外の空間で、文化や歴史に基づいた芝居つくりを続ける。プロデューサー・演出家・役者。2019年上三原田農村歌舞伎舞台創建200年祭では、歌舞伎以外の演劇を一切させなかったという舞台で初のシェイクスピア劇をプロデュースした。

前橋文学館リーディングシアターvol.22
「イエスタデイ」
作・清水邦夫 演出・荒井正人 主催・前橋文学館
2023年8月26日(土)13:30開場 14:00開演
前橋文学館 3階ホール
定員100席(要予約) 観覧料・500円
出演・萩原朔美、東野善典、田村菜穂、中村ひろみ、佐藤真衣、相馬薫、川原崎晴紀、高橋幸良
制作・演劇プロデュースとろんぷ・るいゆ
協力・NPO法人波宜亭倶楽部

稽古日誌
https://www.facebook.com/2023yesterday.maebashi.reading
*出演予定だった音楽・KPCは体調不良により降板となりました

朔太郎音楽祭2023「青山 忠 マンドリンアンサンブル 弦色浪漫 in 前橋
2023年9月2日(土)  14:00開場 14:30開演
前橋文学館 3階ホール
定員80席 入場料・3,000円 (当日3,500円)
出演者・青山忠 (第一マンドリン)、小野朋子 (第二マンドリン)、青山涼 (マンドラ)、谷川英勢 (ギター)

スチューデントコンサート(同日開催)
中学生、高校生、大学生限定
11:45開場 12:00開演 (休憩なし約1時間)
入場料・500円

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前橋文学館

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住所 前橋市千代田町3-12-10