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【萩原朔美の前橋航海日誌vol.20】
電信柱と木の共存

2023.01.30

【萩原朔美の前橋航海日誌vol.20】
電信柱と木の共存

昭和の電柱は木材だった。だから、砂利道に立ち並ぶ枯れ木の風情があった。舞台に1本の木製の電柱が立っていれば、そこに一幕の芝居が生まれる。

今はコンクリートだから、周囲の建造物の土台と一体化していて、人を排除しているように見える。ブロック塀の前に立つ電柱には、犬のオシッコを禁止する札が巻き付けてある。街は無味無臭を望んでいる。生き物の痕跡を消したいのだ。

コンクリートジャンルに、コンクリート並木を毎日歩いていると、何故か風がいっそう冷たい。冷たいとは、爪が痛いと言うことらしい。だからか、冬はポケットから手が出ない。

前橋の電柱は、コンクリートなのに、木のように見える。低木からひとり背伸びしているような風情がいい。犬は近づけないし。(笑)アスファルトに植ったコンクリートの電柱より、低木を従えたコンクリート電柱の方がわたしは好きだ。

 

Sakumi Hagiwara

萩原朔美(はぎわら・さくみ)

1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。昨年、世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵された。著書多数。現在、多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長。2022年4月から、金沢美術工芸大客員教授、アーツ前橋アドバイザー。