interview

聞きたい

【聞きたい宮崎晃吉さん1▶︎】
歴史紡ぐリノベーション

2022.11.05

【聞きたい宮崎晃吉さん1▶︎】
歴史紡ぐリノベーション

前橋信用金庫本部のビルとして親しまれていた築60年近いビル。建て替えも検討されていたが、前橋市出身の建築家、宮崎晃吉さんは「壊すのはもったいない」とリノベーションを提案しました。歴史を紡ぐことができました。

地域の魅力を高め、愛される空間に

―前橋市街地に9月に誕生した、しののめ信用金庫前橋営業部ビルのリノベーションを担当しました。

東京五輪が開かれた1964(昭和39)年に竣工したビルです。柱が一つもないでしょう。その分、梁が太くて頑丈。鉄骨鉄筋コンクリート造という、当時としては先進的な建築物だった。

耐震基準を満たしてなく、建て替え前提で計画されていたが、一目見て「壊すのはもったいないな」と感じた。耐震性を強化することで、この土地に根差してきた建築物を新たな建築物として蘇らせることができる。壊すのは簡単だけど、数十年の歴史が消えてしまう。信用金庫は地域に根差した金融機関。単なる金融機関の店舗ではなく、地域の魅力を高め、地域に愛される空間にしたくてリノベを提案しました。

―楕円階段を昇ると、カウンター式のライブラリーが広がります。書棚には本が置かれていますね。

プロジェクトの打ち合わせで、しののめ信金の横山慶一理事長と会い、本好きということで意気投合した。本を読んだり、中学生や高校生が勉強したりできる空間がほしいね、という話になり、このために増築しました。信金に用のない人も入れます。

1階にはコーヒースタンドを置きました。これも、気軽に立ち寄ってほしいから。ビルの内からも外からもサービスを提供できるようにした。

―一足早く新築移転したエフエム群馬のビルと一体的に整備されています。

地域に根差した金融機関とメディアを掛け合わせると、面白いことができそうでしょ。機能的にも、建築的にも。2つのビルをつなぐ広場は「つどにわ」と名付けられ、日常的に集えるようにした。エフエムの公開スタジオがありますから、イベントも開けます。

ひさしを同じ高さにそろえ、広葉樹を植えることで、日常の憩いを得られる広場とした。夏は木陰の中で、落葉した冬は陽光を浴びながら、コーヒーを飲んだり、おしゃべりを楽しめます。前橋商工会議所が提唱するグリーン&リラックス構想を重視しました。

―ビルは国道17号の西側。「街」の隣というか、裏という立地になります。

「商店街」と県庁や市役所のある「官公庁」、るなぱあくや前橋公園のある「観光」、アーツ前橋のある「アート」の4つのエリアを中継する「交差点」です。るなぱあくで遊んだ親子がここで一休みしてから街に買い物に行く。そんな使い方ができるわけです。これまで個別だったエリアが有機的に結ばれることになります。

みやざき・みつよし

1982年、前橋市生まれ。群馬大附属中―前橋高-東京藝大大学院修士課程修了。磯崎新アトリエ勤務を経て独立する。2013年に「HAGI STUDIO」を設立、東京・谷中を中心に空き家をリノベーションし、飲食、宿泊業を展開している。