interview
聞きたい
【聞きたい阿部智里さん5▶︎】
赤城山の自然、作品に投影
2022.10.28
阿部智里さんが生まれ育ったのは赤城山南麓。自然に親しんだ幼いころからの体験が作品の中に根を下ろしているといいます。前橋の後輩たちには「違う人間、違う社会の価値観を覗き見るための『窓』」である本に親しむようアドバイスしてくれました。
山の中を駆け回った子供時代
―八咫烏シリーズでは山頂に建てられた屋敷、神秘的な沼や滝が舞台になっています。前橋市で育った原体験が作品に投影しているようです。
私は赤城山の中腹にある幼稚園の出身でして、山の中を駆け回り、沢でカニを追い掛け、木登りをして毎日過ごしていました。小、中、高と遠足や赤城山大沼での林間学校もありましたし。豊かな森と、それに接する里山の光景はいまでも私の中に深く根を下ろしています。
―八咫烏自体、前橋市中心街にある熊野神社に祭られています。着想はここからですか。
違います。本を出した後に身近に熊野神社にあるとうかがってびっくりしました。不思議なご縁を感じましたね。
―前橋は好きですか。
大好きですよ。東京に出て来たばかりのころは「群馬には何もない」「関東最後の秘境」なんて言っていましたが、この歳になってよいところだなとしみじみ思います。
そういえば先日、高校時代の友人に「前橋市内観光ツアー」に連れて行かれたのですが、面白い名所がたくさんあってびっくりしました。知っているつもりになっていただけで、実際は何も知らなかったんですね。
―どこに行きました?
白井屋ホテルやアーツ前橋に遊びに行き、大蓮寺でお参りさせていただきました。買い物も楽しみました。鈴木ストアで写真立てやエプロンなどの猫グッズ、香り処日野屋でいろいろな種類のお香を楽しめるアソートメントパック、山田屋陶器店で群馬の作家さんのマグカップを購入しました。お昼はつじ半で海鮮丼を食べ、すいーとぽてとでスティックタイプのサツマイモフライを買い食いしました。
新しいことに挑戦できる人間に
―それは楽しそうでしたね。最後に、中学生や高校生に本の魅力を教えてください。
本は違う人間、違う社会の価値観を覗き見るための「窓」だと思っています。いま所属している場所、学校とか部活とか、仲間とか以外の価値観を見たり、知ったりするのに一番身近な道標です。
―いろいろな世界を知ることは可能性を広げますね。
私もいろいろなことをしてきました。柔道をしたり、ミュージカルに参加してみたり。友達との付き合いとかも含めて、すべてが小説家になる上で糧となっています。私の夢は小さいころからプロの小説家になることでしたが、寄り道はなかったと思っています。
恩師に教わったことですが、何か一つのジャンルしか知らない人より、何かもう一つ持っている人の方が本職でも飛躍できるそうです。何かを始めるのに遅いということはありません。歳をとっても、新しいことに挑戦できる人間でありたいですね。
(写真はいずれも文藝春秋提供)
あべ・ちさと
1991年、前橋市生まれ。荒砥中-前橋女子高―早稲田大文化構想学部—大学院修士課程修了—博士課程中退。デビュー作『烏に単(ひとえ)は似合わない』は史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞した。八咫烏シリーズは累計180万部を突破。
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