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黒板アートがすごい
前橋文学館でお出迎え
2025.08.25
前橋文学館の入り口で来館者を迎える黒板はただの黒板とは違う。手書きならではの温かみと存在感があり、もはや「黒板アート」。多くの人の足を止めている。黒板アートは5年ほど前、ある人物からの無茶振りで始まった。以来、受付を担当する大嶋佳代子さんと落田陽子さんが交代で制作し、展示内容に合わせたデザインを描き続けている。(取材/堀口知子リポーター)
文字だけからアートへ進化
展示案内用の黒板は当初、タイトルなど文字情報だけを掲示、受付を担当するスタッフが交代で描いていた。
テイストが大きく変わったのは、「カフェ風の黒板案内に」という館長の萩原朔美さんの一言だった。それから主に大嶋佳代子さんが中心となってイラストを入れた内容に変わり、大嶋さんが不在の際に落田陽子さんも黒板アートにかかわるようになった。
転機となったのは、2018年に行われた前橋市出身の小説家、阿部智里さんと萩原朔美さんの対談イベントの告知。萩原朔太郎『虚妄の正義』の表紙を模写したところ、これが大好評だった。以降、展示チラシやオブジェをモチーフにしたデザインも取り入れるようになった。
最果タヒ展の黒板アートを担当する大嶋佳代子さん
『猫町』を包むの黒板アートを担当する落田陽子さん
作家の世界観を守る
制作にあたり、2人が大切にしているのは「作家の世界観を壊さないこと」。
大嶋さんは基本的にチョークをメインで制作、落田さんは水彩絵の具やオイルパステルを使用する。「黒板のメーカーによって画材の相性もあるので、いろいろ使い分けています」と2人は語る。画材によって質感や映え方が変わるからだ。
チラシの情報をもとに興味を引く構図を考え、イラスト調に落とし込んでいく。作家のファンをがっかりさせないよう、線一本までこだわり抜く。簡単なデザインなら半日、凝った作品は3〜5日をかけて完成させる。展示への入り口であり、「展示を見たいと思ってもらえるように意識して描いています」とこだわる。
来館者から「印刷ですか?」と尋ねられるほどの仕上がりで、高い満足度を得ていることも大きな励みになっている。
描き手が二人いることもあまり知られていない。落田さんは「是非、描き手による画風の違いも楽しんでほしいです」と意気込む。
展示イベントに合わせて黒板アートを制作する様子
名物としての定着を目指して
展示が終われば消えてしまうアート。それだけに、「一瞬の価値」を見てもらいたいという思いが込められている。
「本来ならチラシやポスターなど、完成されたものを貼っておけばいいのかもしれない。でも、そこに手描きが入ることで足を止めるきっかけになってもらえれば」と大嶋さん。
それぞれの展示内容によって変わる黒板アート。文学館の名物として定着し、展示とともに黒板アートを目当てに訪れる人が増えることを目指している。
年始の挨拶イラストは落田さんが担当している
イラストの内容も毎回試行錯誤して制作
企画内容に興味を持つきっかけとして入り口で出迎えてくれる


