映画の背景に登場している有名なロケ地だから、もちろん知っていた。
しかし、五年前、初めて五叉路に架かる歩道橋を渡ってビックリした。その規模の巨大さ、屋根付きのモダンなデザイン、回廊構造、どれもまったく体験した事のないものだった。映画の中の五叉路は、もっと単純でシンプルな形状として登場している。スケール感が感じられないのだ。それはそうだ。主役は役者であり、ストーリーだ。五叉路は手段なのだ。私は、五叉路が主役の映像を作りたくなった。
と同時に、五叉路見学ツアーが組めるのではないかと思った。
現在全国にどれくらい五叉路は現存しているのだろうか。おそらく、整備されてやがて姿を消す運命なのではないだろうか、と勝手に想像して、なくなる前に、「全国五叉路サミット」を前橋で開催したら面白いなあ、などとイメージを膨らませてしまった。
出会ってから五年が過ぎた。だいぶ痛んできた。私は上り下りするたび、息を切らせながら同世代に話しかけるように、
「頑張れよ、君の姿は今日も、斬新で魅力的だよ」
と心の中で呟いている。
もちろん、信号がなかなか変わらない場所だから、その不便さを楽しみに変える必要がある。バスが五叉路の信号に引っ掛かると、
「これが前橋名物五叉路時間です。いい事があると言う噂の」
とアナウンスし、タクシーは、
「お客様、ラッキーでしたね。これが前橋名物五叉路時間です」
と説明してもらいたい。
五つの風が混ざり合う幸福の地点。五つの異なる方角からやって来た旅人が出逢う場所。そう、あの圧巻の存在感は、五大陸の文化の交流地点を象徴しているからこそ、生まれるのである。
萩原朔美(はぎわら・さくみ)
1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。著書多数。現在、多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長。
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