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遊びたい

企業が地域課題に取り組む
ソウワ・ディライトが「あきち」

2024.05.18

企業が地域課題に取り組む
ソウワ・ディライトが「あきち」

電気工事業のソウワ・ディライト(前橋市小屋原町、渡邉辰吾社長)は地域の子供たちに自由に遊べる「あきち」を開放している。動物と触れ合ってもいいし、トランポリンで遊んでもいい。牧草に寝転がる子がいれば、本を読む子もいる。遊具が整備された公園ではなく、かつてはどこにもあった「あきち」。決められた遊びではなく、好き勝手に遊びながら多様性や思いやりを学んでもらう。

ヤギ、ロバに馬も羊も仲間入り

北に赤城山を望む5000平方㍍の広大な牧場。2頭のロバが走り回り、4頭のヤギが雑草をはむ。ここに最近、1頭の馬そして3頭の羊が仲間入りした。

道産子の雌のアマナは白馬で目が青い。全国有数の馬の産地で人と馬が共生する文化が残る岩手県遠野市からやってきた。穏やかな性格からか、雄のロバ、ニコラは一目ぼれしたように懐いている。

▲2頭のロバ。ロバは古くから人間と共生してきた

▲鳥居の下でのんびりと草をはむヤギ

夕方になり、近くの駒形小の5、6年生が遊びにやってきた。恐る恐る手を出して触ったり、頬をくっつけたり。「温かい」「めちゃ、気持ちいい」。女子は行動が早い。

「乗ってみるかい」。渡邉さんの言葉に「いいの」と戸惑いながら返事する男子。飼育担当者に引いてもらい、交代しながら初の乗馬に挑戦した。

「最初は緊張したけど、すっごく楽しかった。背が高くて気分良かったな」。5年生の引田良君は満足そうに笑顔を広げる。

▲「温かいな」。ロバに手を触れる児童

▲白馬に乗った王子様の気分

牧場は本社近くの耕作放棄地を借り受け、2年前から運営してきた。

ヤギやロバは古くから人間と共生してきた。馬も同じ。群馬県は特にそうだった。農作業や荷物の運搬に欠かせない動物だった。

「動物と共生することで人間らしさを追求するため、私たちは一緒に生活している。そんな自分たちの日常を地域の子供たちにも味わってほしくて。地域動物として関係性を築いてもらいたい」。牧場を開放する理由を渡邉さんはこう解説する。

▲渡邉さんとアマナのツーショット

近くには駒形小、笂井小、山王小、永明小があり、放課後になると友達同士で集まってくる。週末には高崎市や伊勢崎市から遊びに来る子もいる。

少し離れたソウワ・ディライトの本社隣接地には「coco no mori(ココノモリ)」と名付けた森があり、こちらも地域に開放している。

トランポリンがあり、小さな図書館があり、さらに「世界一小さい」とギネス世界記録に認定された本屋さんもある。

▲トランポリンで遊ぶ子供たちとアマナ

相互扶助の「結」を現代に

渡邉さんが牧場や森やあきちを作った理由は「結(ゆい)」を現代に復活させることにある。「かつては相互扶助の精神で対価を求めることなく地域の課題にみんなが協力し合った。いまは地域にリーダーがいなくなり、自治会や子供会といった組織も弱体化している。その役割を地域の企業が担えばいいと考えた」

そのために、「会社の利益を組織拡大のための設備投資や内部留保に振り向けるのではなく、地域が抱える課題解決にフルベットすることにした」と説明する。右肩上がりの成長を追わず、「緩やかに存続する企業」として利益を地域に還元している。

▲アマナに乗る渡邉さん

最初に手掛けたのが子供をめぐる課題だった。「経済格差や教育格差も深刻だが、その前にいまの子は過度の情報のインプットで吐き出すことができなくなっている。うまく呼吸ができない。ここに来ることで、それを救いたかった」と願っている。

森も牧場もあきちも子供たちだけでなく地域の人に親しまれてきた。大人にも憩いの場となっている。

同時に、ソウワ・ディライトという会社も地域の会社として認知されてきた。「30年以上もこの地で仕事をしてきたが、何の会社なのかあまり知られていなかった。最近はおかしなことをやる、おもしろい会社だと好意的に受け止めてもらっている」

渡邉さんがアーティストとしても活動していることもあり、業務でも従来の取引先だけでなく都内など県外からオファーが来るようになった。また新たな時代に求められる新たな企業の在り方に多くの企業が日々同社に見学に訪れる。

「情けは人の為ならず」を具現化している。