interview
聞きたい
【飲食店の仕掛け人①】
「ポルコダイナー」生んだ試行錯誤
パズール社長、田中伸志さん
2026.08.27
前橋市内で5つの飲食店を展開する「パズール」を率いる。手がける店は肉バル、アジア料理、鶏とエビの店などバラエティー豊かだ。うまくいった店をそのまま増やすのではなく、統合したり、業態を変えたりしながら今の形をつくってきた。試行錯誤を重ねる中で見えてきたのは、「5000円でしっかり楽しめる店」という田中さんなりの答えだった。
(取材/阿部奈穂子)
「群馬版の肉バル」でつかんだ手応え
――独立したのは11年前、2015年ですね。
中央前橋駅近くに「ロジウラ肉バル シータ」を開きました。最初の2カ月くらいは、本当に知り合いしか来なかったんです。
でも、「シータの肉コンボ」というメニューが当たりまして。東京で働いていたころに肉バルが流行っていて、「これを群馬版でやろう」と思ったんです。群馬県産の豚や牛を5種類盛り合わせて1980円と、かなり抑えた値段で出しました。
それを目当てに来てくれる人が増えて、目玉商品の重要さを実感しましたね。
▲話題を呼んだシータの肉コンボ
――2店舗目も早い。2年後の2017年に出店しました。
シータで予約を断ることが増えて。もったいないなと思い、銀座通りに「マチナカ大衆ミート酒場 バルス」を出しました。
当時は「ネオ大衆」が流行っていました。昔ながらの大衆酒場の雰囲気を残しつつ、少しモダンでおしゃれにした店ですね。そのころは流行っているものに結構飛びついていました(笑)。
――2019年には3店舗目。現在のポルコダイナーの前身となる「マチナカイタリアン酒場 ポルコ」を開きました。
バルスの隣につくりました。以前、「カプリチョーザ」の店舗責任者を務めていたこともあり、イタリアンに挑戦したんです。振り返ると、2年に1店舗のペースで出店し、全部が順調だったんですよね。「さあ、これからだ」というところで、コロナが来ました。
コロナ禍で2店を統合
ポルコダイナー誕生
――コロナはきつかったでしょう。
相当なダメージでしたが、動かないわけにはいきません。まず考えたのは、無駄を削ること。それから、店の形を変えることでした。
シータはお弁当の店にしました。2022年にはバルスを閉めて、ポルコと統合しました。それが今の「ポルコダイナー」です。
▲銀座通りに建つポルコダイナー
――2つの店を一つにして、どんな店にしようと考えたんですか。
ポルコのパスタやピッツァといったイタリアンは残して、バルスで人気だった肉料理も入れました。
だから、今のメニューを見ると、一見「何屋なんだろう」と思うかもしれません(笑)。でも、それが結果的には良かったんです。
――特に「ネオレバ刺し」と「肉寿司」が名物になりました。
ネオレバ刺しは、もともと「鶏レバーのカルパッチョ」として3種類の味で出していたんです。その中で、塩とごま油味だけが群を抜いて人気だった。だったら、ほかの2種類をやめて、それだけ独立させようと。名称も「ネオレバ刺し」に変えました。生っぽい食感を残すため、温度と時間を細かく管理して真空調理しています。
▲ポルコダイナーの人気を押し上げたネオレバ刺し
「流れ」に乗る。
でも、店は変え続ける
――2023年には、中心市街地から初めて郊外へ進出しました。大友町に「肉とアジアンの酒場 シーリン」を出しました。
これは完全に流れですね。先輩がやっていた店を引き継ぐことになったんです。僕は「流れ」を大切にするタイプなんですよ。何か話が振ってきたときに、「行けるかも」と思ったら、とりあえず乗ってみる。
もちろん、始めたらそのままというわけではなくて、きちんとブラッシュアップはしますよ。
▲肉とアジアンの酒場シーリンは駐車場のある店舗
――なぜアジア料理だったんですか。
いろんなことをやってみたかったんです。お客さんにとっても、選択肢がいろいろあった方が面白いんじゃないかと思いました。
ただ、郊外ならではの難しさはありますね。金曜、土曜はたくさん来ていただけるんですが、平日は弱い。苦戦しています。これから真剣にテコ入れしなければ。
▲インドネシア風焼きそばのミーゴレン
――2025年には本町に「コースDE酒場 バロン」を出店し、今年7月、「Chicken & Shrimp Diner BARON」へと業態を変えました。鶏肉とエビとは面白い組み合わせですね。
今、牛肉も豚肉も高くなっていますよね。
僕がつくる店は、全部「5000円で飲んで食べて、しっかり楽しめる店」にしたいんです。高い店にはしたくない。
そう考えると鶏肉は使いやすい。でも、鶏だけだと少し弱い。そこにエビを組み合わせたという感じです。
▲ボリュームたっぷり、BARONグリルコンボ
「5000円」と「80点、90点」の店づくり
――「5000円」が、田中さんの店づくりの軸なんですね。
はい。空間がおしゃれで、料理もサービスも納得できる。それで飲んで食べて5000円くらいに収まったら、「いい店だったな。また来よう」と思ってもらえるじゃないですか。
僕自身、お金持ちの家で育ったわけではなく、普通の庶民の家庭だったというのもあると思います。
――スタッフには、どんなことを伝えていますか。
常々言っているのは、「ドリンクは早く出そう」です。
飲み物が何もない時間って、お客さんにとって一番のストレスなんですよ。そういう小さなことをきちんとやる。それが大事だと思っています。
▲店づくりについて語る田中さん
――現在、従業員とアルバイトを合わせて35人ほど。今後はさらに店を増やしていく考えですか。
規模を大きくすること自体が目標ではないですね。それよりも、従業員やスタッフが輝ける場所をつくりたい。本当にそう思っています。
飲食店としては休みは多い方ですし、待遇面もよりしっかりしていきたい。僕は学生のころから野球やバスケなど、チームスポーツをやってきました。飲食店もチーム。みんなで飲み会をしたり、1日旅行に行ったりもします。やっぱり絆は何より大事ですね。
――田中さんにとって、長く選ばれる店ってどんな店ですか。
100点を目指して変にハードルを上げるのではなく、いつも80点、90点を出せる店がいい。
「ポルコが絶対いい」じゃなくて、「ポルコでいいよね」を目指したいんです。
「今日、ポルコでいいよね」と自然に選んでもらえて、行けばちゃんと満足できる。そういう店が強い店だと思っています。
たなか・しんじ
1985年前橋市生まれ。芳賀中―前橋東高―群馬調理師専門学校卒。カプリチョーザやハードロックカフェなど約20の飲食ブランドを展開する「WDI」に5年間勤務。その後、前橋、東京の居酒屋勤務を経て2015年に独立。2018年に会社組織化し、パズールを設立。現在、前橋市内で5つの飲食店を経営する。


