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聞きたい

【聞きたい スプツニ子!さん3▶︎】
男性に生理があったら  ジェンダーの境界を考える

2022.02.01

【聞きたい スプツニ子!さん3▶︎】
男性に生理があったら  ジェンダーの境界を考える

様々なテクノロジーによって生まれる可能性のあるモノや思考、ライフスタイル。そんな未来を考察しながら、映像やインスタレーション作品を制作するアーティスト、スプツニ子!さん。テクノロジーはこんなに発達しているのに、なぜ女性は生理の痛みからまだ解放されていないのかという問いから生まれた「生理マシーン、タカシの場合。」、バイオテクノロジーという新しい技術と神話の共存性を問う「運命の赤い糸をはく蚕-タマキの恋」など、取り組む作品のテーマは多岐にわたる。

テクノロジーの進歩でどんな未来が起こるのか

―スプツニ子!さんといえば「スペキュラティブ・デザイン」のアーティストという印象が強いのですが…。「スペキュラティブ・デザイン」とはどんなデザインでしょうか。

「一般的にデザインという言葉を聞くと、見た目がかっこいいファッションをデザインするとか、使いやすいボトルをデザインするなど、見た目を良くしたり、機能を充実させるものだと考える人が多いようです。それは目の前の課題を解決するようなデザインです。

今、さまざまなテクノロジーが登場しています。遺伝子組換えシルクのようなバイオテクノロジーや、人工知能、最近話題のNFTやブロックチェーン技術もそう。そういったテクノロジーが広がっていくことで、『未来にはこういったプロダクトや思考、宗教、コミュニティ、政府、ライフスタイルなどが生まれるかもしれない』という提案を、デザインを通して行い、議論や思索を促す。

デザインを通して問題解決だけでなく、問題提起をする。それがスペキュラティブ・デザインの考え方です」

―スペキュラティブ・デザインに取り組むきっかけは?

「スペキュラティブ・デザインの考え方を最初に提唱したのは、私の師である英国王立芸術学院(RCA)の教授、アンソニー・ダン先生とフィオナ・レイビー先生で、彼らの影響は大きいです。

また、私は大学で数学とコンピュータサイエンスを専攻していたのですが、『テクノロジーや科学の進歩によってどんな未来が起こりうるのか』を想像するのが好きな学生でした。

大学時代は、アーキグラムやスーパースタジオといったイギリスやイタリアの建築家集団にも影響を受けましたね。『未来の都市やライフスタイルはこうもあり得るよね』と、作品を通して提案していた建築家たちです。

―具体的にはどんな提案を?

「例えば、スーパースタジオは60年代くらいに活躍していたのですが、未来の街はグローバル化が進み過ぎ、同じような無機質な建築が地球上に張り巡らされるだろうと、非常に皮肉なビジュアルを創って提案しました。彼らはとても先見の明があって、世界のグローバル化を示唆する作品以外に、インターネットに近い概念も作品で提案していました。

確かに今、どの街に行っても似たようなガラスのビルが建ち並び、スーパースタジオが警鐘を鳴らしたような未来が訪れている。スペキュラティブ・デザインは、そうした問題提起型の建築家たちの流れも汲んでいます」

「生理マシーン、タカシの場合」で伝えたかったこと

―作品のテーマにはジェンダーの問題も多いですね。

「英国人の母のもとジェンダーギャップの大きい日本で生まれ育ったので、必然的にジェンダーの課題について考えることが多かったのかもしれないです。

2010年にRCAの卒業制作で作った『生理マシーン、タカシの場合。』は、ジェンダーの境界や、女性の月経をとりまく問題について思索した作品です。2010年当時、社会では生理について話すことがまだタブー視されていたのですが、人類の半分である女性がこれだけ痛みや辛さを経験しているのに、社会的にまるでなかったことにされている現実に違和感を持っていました。

そこで、生理の痛みや辛さを〝生物学的男性〟も体験できるデバイスをデザインしたのです。多くの人が体験すれば、相互理解が深まって必要な議論が進んでいくかもしれない、と思って。

作品を発表してから10年経った今、フェムテック(女性の健康課題を解決するテクノロジー)が社会現象になっています。中心にあるのは今までタブーだった生理などの健康課題を、公にし、話し合い、理解しあい、解決しようという思想。生理マシーンを制作した時に提案した未来とつながっているのを感じます」

―ジェンダーといえば、前橋は地方のせいか、男だから、女だからという意識がまだ強いような気がします。

もし「自分は女だから、〇〇を諦める」という考えを持っていたら、今すぐ思い直してほしいと思います。

学生たちの相談に乗っていると、時々、家族や親戚の影響で夢を諦めようと考える女子がいます。そういう女子は確かに、都市圏より地方に多いかもしれません。

例えば以前、九州の進学校で講演した時、聴講した女子学生から『親戚が男尊女卑なので困っている』という相談を受けました。また、日本の医大が女子の合格者の人数を意図的に抑え、社会問題になった件について、『女は結婚して育児をするから、減点されても仕方ないと母が言っていた』と話す女子学生もいました。

もう2020年代だというのに、進学校に行っている娘に、母親がそんなことを言うなんて悲しいですよね。家族を大事にすることも大切ですが、『親は親、自分は自分』としっかり線を引いて、自分の可能性を信じてほしいなと思います」

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