interview
聞きたい
【聞きたい小林新一さん】
花を贈る=気持ちを贈る
2023.05.24
独自に構築した生花店のネットワークを活用、世界中から注文を受けた高品質の生花を全国どこへでも届ける。花助の社長、小林新一さんは花き栽培を学び、実践した花のプロ。「花を贈ることは気持ちを贈ること」の原点を大切にグローバル展開する。
起業仲間で地域に貢献
―GIS(群馬イノベーションスクール)の卒業生でつくる「GISアドバンス」の初代理事長に就任しました。なぜ、設立したのでしょう。
GISは2014年、ジンズホールディングスの田中仁CEOが創設しました。今年は10期生が始動します。同期は繋がりが深く、仕事でも私生活でも刺激し合っていますが、期が違うと関係が希薄になってきた。
同じ志を持って学んだ者同士が集まれる学びの場があれば、それぞれのビジネスにも役立つし、それによって地域の課題解決にも貢献できると思い、声を掛けさせてもらいました。
-GISに入った理由を聞かせてください。
第1回GIA(群馬イノベーションアワード)に応募したんです。「求む! 出る杭」とのコピーが付いた募集広告を見て、「これに挑戦しないと、未来はない」と直感的に感じて。それまでは、ビジネスコンテストには興味がなかったのですが。
でも、書類審査で落ちてしまって、何がいけなかったのか知りたくてスクールで学ぶことにしました。
それと、2005年に起業しましたが、ビジネスについて話し合う友人がいなかった。同業者や関係先とは「厳しいですね」ぐらいしか話さない。ビジネスの話をするのが恥ずかしいというか、照れくさいというか。経営者として孤独で、本音で仕事のことを話し合える友人がほしかったんです。
-GISでの学びは役に立ったでしょうか。
実に役立ちましたね。GIAの審査はビジネスの最前線に立つ人がやっています。彼らに理解してもらえるように言語化しないと、お客さんには伝わらない。伝え方、プレゼンの仕方を学びました。
おかげで3年目にしてGIAのファイナリストとして登壇することができた。いい時間をもらったと感謝しています。
-本音で話し合える友人は。
はい、同期はみなかけがえのない存在です。同業者にはない新鮮な感覚で知らずのうちにいいヒントをくれる人もいますし、いい刺激になる。
1期生と2期生の勉強会で、「ユーチューブで何か発信したら」とアドバイスされ、やってみました。当時、アイドルグループの握手会といったイベントにファンが「推し」に贈る花を扱っていて、試しにユーチューブで「お客さんが花屋を選ぶ不安と安心を考える」をテーマに歌を交えて発信したところ、3日間で55万円の売り上げになった。
英語でしゃべったら、カナダのアパレルメーカーから大量発注がありました。
-それは、すごい。
グルメフレッシュ・フーズの松本健さんとHAWORDの宮崎雄一さんは特にかけがえのない存在です。2人ともビジネスを真剣に考えているし、遊び心を持っている。
松本さんからは経営者がよく言葉にする「覚悟」の意味について「意志」だと説明され、すっと落ちた気がした。
宮崎さんが2号店を出店すればライバル心を掻き立てられ、システムとWebを自社のものにした。
家族にも話せない悩みも話せる。互いに墓場まで持っていかなければならない話もね(笑)。
花き栽培から生花店経営
-もともとは花き栽培をしていたとか。
実家がバラ農家で跡を継ぐつもりでした。米国に2年、オランダに1年留学し、当時の最先端の経営、技術を学びました。米国のスケール、オランダの技術力に驚かされましたね。
帰国して、家の仕事もしましたが、バブルが弾けて経営は厳しかった。バイトをしたのがいま会社がある店。24時まで営業し、飲食店に花を納める仕事です。ホストの誕生日などで1日に数十万円売り上げることもあり、深谷や本庄、足利市まで花を届けることもあった。経営者から引き継ぐ形で、2005年に創業しました。
華やかな世界なので、贈る花にもゴージャスさが求められ、埼玉・加須市の市場まで仕入れに行きました。仮眠をとって朝4時に市場に行く生活が週4回。体調を崩し入院していても注文が入るほど。一方、売り上げはあっても未収金になることも多く、割に合わない仕事でしたね。
-インターネットでの販売に活路を見いだします。きっかけは何だったのでしょう。
花が一番売れる「母の日」に売れなくなったことです。ネット販売に切り替わってきたことに気づき、急いでHPを作った。最初は全然売れなかったのに3日前から急に売れ始め、400件も注文が入りました。
-大成功ですね。
いや、急だったので、未配達もありました。おせち料理が年末に届かないような失敗です。
ネット販売はほかにも失敗があった。既存の生花店の全国ネットを使って花を届ける事業をしたところミスの連発。名前を間違っていたり、結婚式に葬式の花を届けるなど信じられないミスがあった。発注された店の中に本気で仕事をしない店もあったわけです。
そこで、全国の生花店を回って130店の独自のネットワークを作りました。信頼される店だけの。
それと、大手のお客さんからお叱りを受け、高価格帯の商品を充実させました。一番高いのが5万円でしたが、もっと高くてもいい花を贈りたいという需要があることを知りました。
「推し活」市場をターゲットに
-利幅が違いますね。次なる一手は。
アイドルを贔屓する「推し活」市場は6000億円あると推定されています。こちらをターゲットにした新たなネットワークを立ち上げたいと構想しています。
顧客の満足度を満たす商品は普通の花屋さんでは対応できなくなっている。バルーンを使ったり、電飾を施すなど、高度な技術が必要。それを満たせるネットワークが求められると読んでいます。
こばやし・しんいち 1972年、前橋市生まれ。芳賀中-勢多農高-県立農林大学校卒。米国とオランダに3年間留学する。実家のバラ栽培を手伝う傍らバイトしていた花の小売店を継承、独自のネットワークやSNSを活用、業績を拡大している。