茂兵衛
「こっさり」な中華蕎麦をどうぞ

駒形にある「町の蕎麦屋さん」は手打ち蕎麦の隠れた名店です。田舎風の色黒で平打ちの蕎麦は滑っぽく、もりにしてよし、種物でもよし。中太のうどんも旨い。なのに、頼んだのは…。

「これぞ中華蕎麦」と声を大にしたい一杯です。丸いチャーシューにたっぷりのホウレンソウ、メンマにナルト。中華蕎麦の正しい顔ぶれです。

スープには意表を突かれました。色が濃くない。いわゆる蕎麦屋さんのラーメンとは一線を画しています。甘みとコクが感じられ、あっさりしているのにこってり。「こっさり」な感じです。

細打ちストレートの麺を啜ります。喉越しの良さといったら、もう最高。最初から硬くはなく、それでいて最後まで伸びることはありません。

チャーシューは脂身の旨いばら肉。柔らかく味がしっかりしています。メンマもそうですが、出来合いではなく自家製だそうです。

具をあらたか平らげたら、蕎麦屋さんならではのトッピングを追加します。

そう、かき揚げ。カラッと揚がったかき揚げを載せます。タマネギ、ニンジンにシュンギクが入った大きなかき揚げが丼を覆います。コクが増して「こっさり」が「こってり」に。七味をたっぷりかけて、立ち食い蕎麦のように汁ごといただきます。

地元の英雄、駒形茂兵衛の名を屋号にした店は創業して60年近く。こだわりの蕎麦を打つ２代目店主の井野智晴さんは「ラーメンしか注文しないお客さんもいる。できれば蕎麦を食べていただきたいけど…」と複雑な表情を浮かべます。