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【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.54】
走る映画館に揺られて

2026.02.03

【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.54】
走る映画館に揺られて

 

 今まで何回、前橋と新宿を往復するために湘南新宿ラインに乗っただろうか。実は、数える事が出来る。座った前の席を被写体にしてシャッターを押すからだ。そのため、撮影しやすいボックス席に座るようにしている。

 ボックスシートは、四人掛けの対面式なので、前に人が居ない時が撮影チャンスだ。

 人の座らない座席の背もたれは、私にとって映画のスクリーンだ。時々激しく光と影が輪舞する瞬間がある。そんな時は、思わず連写してしまう。淀川長治さんは、電車に乗っていて、トンネルの出入りの光と闇が楽しいと書いていた。淀川さんも車内を映画として観ていたのだろう。

 座席に、めまぐるしい光と影の運動が現れた日は、何かいいことが起こるような気がして気分がいい。

 曇りの日は、携帯はカメラではなく原稿を書く道具に変身する。この原稿は、携帯で書いている。  

 私にとって、前橋から新宿への2時間は、楽しい映画館であり、書斎なのである。

Sakumi Hagiwara

萩原朔美(はぎわら・さくみ)

 1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮。世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵されている。著書多数。多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長(現在は特別館長)。2022年4月から金沢美術工芸大客員教授(現在は客員名誉教授)、2023年7月から前橋市文化活動戦略顧問。