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【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.49】
「夢の落とし物」
2025.08.30
空を飛ばなくなってから、もう何十年も経った。夢の中では、何であんなに自由に大空を羽ばたけたのだろうか。多分、20 代の頃が一番盛んに、飛び回っていた。自分の家の屋根から、遠くの山まで泳ぐように飛翔するのだ。
それが、30代に突入してから徐々に見なくなった。たまに見るのは、必死に手をバタバタさせて、屋根に上がろうとすると、腕の羽根が数本落下して、同時に身体も地面に墜落してしまう夢だ。
喜寿を超えてからは、墜落の夢すら見なくなった。だからかも知れない。道路に鳥の羽根が落ちていると、思わず撮影してしまう。羽根の持ち主は、無事に飛べたのだろうか。余計な心配をしてしまうのだ。
いつだったか、FBで、
「鳥の羽根が出てくる映画なんだっけ」
と呟いたら、瞬時に
「フォレスト・ガンプ」
と、青山真治監督が教えてくれた。その事も忘れられない。
ピーターパンが
「飛べないと思ったら、本当に飛べなくなる」
というような台詞を言っていた。
多分、もう自分は飛べなくなったなあ、と思った時から夢を見なくなったのだろう。反対に、道に落ちている羽根はよく目撃するようになった。何故か前橋駅の周辺が1番多い。飛べなくなった鳥は、きっと鉄道を利用しているに違いない。
Sakumi Hagiwara
萩原朔美(はぎわら・さくみ)
1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮。世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵されている。著書多数。多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長(現在は特別館長)。2022年4月から金沢美術工芸大客員教授(現在は客員名誉教授)、2023年7月から前橋市文化活動戦略顧問。


